日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

危機の時代の歌──米国日系移民強制収容所の俳句、短歌

現代詩手帖、第63巻第11号、2020年11月、pp.40-44

坪井秀人さんの『二十世紀日本語詩を思い出す』(思潮社)の刊行を記念した特集に寄稿しました。内容は副題の通りなのですが、自分としては、『怒濤』という収容所の中の同人誌に発表された句

 置去りの犬に転住見送られ   兒玉八角

の解釈が気に入っております。1945年6月に詠まれたものです。収容所から出て行くとき、置き去りにされる犬を見る目、その犬に見返される目。「置去り」にされた何ものかが、犬に姿を変えて、私を見送っている。日系人の俳句や短歌を見ると、彼らは人生をよく旅に喩えています。収容所から出て行く「転住」もまた、その意味では旅なのでしょう。彼らは、すべてをかついで旅していたのでしょうか。いやむしろ、何かを置き去りにしながら、旅を続けていたのではないか。犬は、そういう彼らの後ろ姿を、じっと見ている。そんなことを考えながら、読んだ句でした。
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