日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

いただいた本とCDを紹介

「サークルの時代」を読む 戦後文化運動研究への招待

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お送り下さった編者のみなさん、執筆者の方々、ありがとうございました。
戦後のサークル運動を考える、分厚く、そして熱い論文集。道場親信さんのご遺著の一つでもある。全10章+コラム11本という大部の構成です。詩など文学系が多いですが、美術や幻燈もあり、ガリ版印刷など出版文化についてのコラムもあります。地域も大阪、京浜、長崎など多岐にわたりますし、交差する横軸としても朝鮮戦争や在日朝鮮人、原爆、(結核ハンセン病など)療養所など興味深い補助線が多いです。
巻末の参考文献、「文献案内」、「戦後サークル文化運動略年譜」なども、この分野について私は知識が少ないので、ありがたい。
序章でチラリと課題のひとつとして上げられていたけれど、戦前の左翼系の運動とのつながり/断絶は、頭を整理するためには気になるところ。これからじっくり各論を読んで勉強してみます。
名大の学生たちを見ていても思うけれど、「運動」とか「コミュニティ」とか「共同体」とか「療養所」とかいう、ある種の集団の動態や輪郭を考える指向ってのが、今の研究状況の中で、一定数ある気がしている。きっと私たちが置かれている「現在」のあり方と関係しているのだけれど、まだしっかり言語化はできていない。

村上春樹論──神話と物語の構造

www.books.com.tw

著者の内田康さんから頂戴する。感謝!
村上の中長篇についての作品分析を重ねながら、抽出可能な神話や物語の構造を考えたものとなっている。終章にそれが整理されているが、「オルフェウス型[イザナキ型]」「イアソン型」「テーセウス型」「オオクニヌシ型」などの構造的類型を提示し、それに過去・現在・未来の〈喪失〉の三層構造や、王殺し・父殺し、女をめぐる物語・男をめぐる物語が交差して考えられていく。
詳細な目次はリンク先参照。
台湾での出版なので、日本国内ではやや入手しにくいかもしれない。

ライトノベル・フロントライン 3

honto.jp

大橋崇行さんより頂戴。ありがとうございます。
シリーズも3冊目。この業界については素人同然の私には、とにかく勉強になることばかり。今回は第2回ライトノベル・フロントライン大賞の発表とそれに関係する選評が掲載されていて、ははーそういう傾向ですか、と知った気持ちになれる。もう一つの小特集、「メディアミックスの現在」もよい。ノベライズ、アニメーション、作家、コンシューマーゲーム、音楽・声優、パソコンゲームと並ぶ。

ほかに山中智省さんの「〈ライトノベル雑誌〉研究序説」、茂木謙之介さんの「〈皇族萌え〉とモノガタリ」など、面白そうな個別論考も並ぶ。

やっぱりここは現代小説/文化論の一つの前線ですわね。


Yokohama, California

ヨコハマ、カリフォルニア

ヨコハマ、カリフォルニア

日系を中心としたアジア系アメリカ人のグループ「ヨコハマ、カリフォルニア」の同名のアルバム(の復刻+ボーナストラックス)。ライナーノートの翻訳と解説をなさった神田稔さんから頂戴する。バンド名、アルバム名は、著名な日系作家のトシオ・モリの同名の短編小説集(1949)にちなむ。原版は1977年に自主制作で出た。アフリカ系、アジア系などアメリカのマイノリティ・グループの対抗文化運動の一部だったといえるのだろう。

アルバムの冒頭にこうある。「わたしたちが歌で表現しようとしたのは、アジア系アメリカ人の歴史、わたしたちのコミュニティーが抱える現在の問題、そして将来に向けた希望である」(神田さん訳)

歌詞とその解説(メンバーたち自身が書いている)を読むと、強制収容など日系人の歴史だけでなく、フィリピン系のコミュニティの話や、日本への原爆投下にかかわるものなど、彼らのアンテナの横への広がりも見える。

トシオ・モリの描いた第二次大戦以前の日系コミュニティ、ヨコハマ・カリフォルニアのフォーク・ソング、重ねられる記憶と表象を、2017年の私たちはどう聞き、読むか。神田さんの詳細な解説も必読です。