『〈自己表象〉の文学史』第三版、刊行されました
2002年の刊行以来ご好評をいただいている(自分で言うな)『〈自己表象〉の文学史――自分を書く小説の登場』の第三版が刊行されます。
第三版のポイントは、
- 私小説研究文献目録が最新の状況にアップデートされた
- ソフトカバーになった
- 定価が 2900円+税 に値下げになった
- 第三版あとがきがついた
であります。もうすぐ、書店店頭やネット書店で買えるようになると思います。
以下、書誌、第三版あとがきと、目次を掲げます。
書誌
発行日 2018年3月20日
発行所 翰林書房
ISBN 978-4-87737-420-4
総ページ 297頁
第三版あとがき
本書『〈自己表象〉の文学史――自分を書く小説の登場――』は、二〇〇二年に初版が刊行された。筑波大学に提出した私の課程博士論文を公刊したものであった。それから一五年が経過したことになる。
刊行時に、「自己表象」という言葉をめぐって、翰林書房の今井肇氏から、ややわかりにくいのではないかと再考を促されたことを思い出す。修士論文や博士論文の審査過程でも、先生方からいく度もこの言葉の意味の説明を求められた。当時、わずかな先例しか見い出すことのできなかった術語であり、ほぼ造語に近い感覚を与えるものだと自分でも認識していた。いま、この言葉は文学研究だけではなく、社会学や人類学、歴史学で時折見かける言葉となっている。もちろんそれは私のささやかなこの本の影響などではなく、「自己」を「表象」することをめぐる学術的な関心が、さまざまな領域において広がってきたということを示すものだろう。他者や周囲の環境に向かって、どのように自分自身の「現われ」を指し示すのか、その表象行為のなかにどのような戦略や駆け引きがあるのか、分野を問わず興味深い考察テーマでありえよう。
この一五年間の私小説研究の状況は、盛況とはいえなかったが、停滞していたわけでもなかった。法政大学の私小説研究会とそのメンバーたちの活動があり、他の研究者の著作も継続的に現れている。車谷長吉(惜しくも二〇一五年に亡くなったが)やリービ英雄、柳美里、佐伯一麦、西村賢太らの創作活動もある。詳しくは本書所収の私小説研究文献目録の増補分をご覧いただければ幸いである。
学術出版をめぐる厳しい環境の中、第三版を刊行して下さった翰林書房の今井肇氏、静江氏には心から御礼を申し上げたい。相談の上、この版からソフトカバーとし、定価も大幅に下げることとしている。私小説の歴史に関心を持つ少しでも多くの方に、手に取っていただければ幸いである。二〇一八年二月三日
目次
[目次]
序 章 〈私小説起源論〉をこえて
1 〈自分を書く〉ということ
2 先行する評価群の整理
3 〈私小説起源論〉の諸種
4 批判と超克第I部 〈自己表象〉の登場
第1章 メディアと読書慣習の変容
1-1 作品・作家情報・モデル情報の相関──明治三〇年代──
1 『新声』と新声社の活動
2 作家情報と作品の交差
3 題材/モデル情報と作品の交差
4 作家情報と題材/モデル情報1-2 「モデル問題」とメディア空間の変動──明治四〇年代──
1 「モデル問題」の射程
2 「モデル問題」の顛末
3 「モデル問題」のもたらしたもの第2章 小説ジャンルの境界変動
1 「自分を主人公として作つた」小説たち
2 〈身辺小説〉の流行と〈自己表象テクスト〉の登場
3 「蒲団」の読まれ方
4 小説ジャンルの境界変動
5 〈自己表象テクスト〉の出発第3章 〈文芸と人生〉論議と青年層の動向
1 〈文芸と人生〉論議の推移
2 青年たちの〈文芸と人生〉
3 「人生観上の自然主義」という思想
4 論議の行方第4章 〈自己〉を語る枠組み
4-1 〈自我実現説〉と中等修身科教育
1 〈自己〉への関心
2 〈自我実現説〉とは何か
3 中等修身科教育と〈自我実現説〉
4 〈自己〉を語る枠組みの形成
5 結び──〈自己〉・人格・芸術4-2 日露戦後の〈自己〉をめぐる言説
1 「二潮交錯」
2 〈自己〉論の三つの系統1 自己の文芸論
3 〈自己〉論の三つの系統2 自己の描写論
4 〈自己〉論の三つの系統3 自己の探求論
5 〈自己〉論の隆盛と〈自己表象テクスト〉第5章 小結──〈自己表象〉の誕生、その意味と機能
1 小結
2 〈自己表象〉の再評価へ向けて
3 〈自己表象〉の意味と機能第II部 〈自己表象〉と明治末の文化空間
第6章 自画像の問題系──東京美術学校『校友会月報』と卒業製作制度から──
1 自分を描く小説と絵画
2 東京美術学校西洋画科の卒業製作制度
3 絵画の読み方──作品と「人格」
4 〈自己〉への関心の広がり──校友会文学部と同時代の動向
5 〈自画像の時代〉へ第7章 帰国直後の永井荷風──「芸術家」像の形成──
1 ある〈肖像〉
2 読書の慣習と新帰朝者
3 『あめりか物語』から『ふらんす物語』へ
4 「歓楽の人」荷風第8章 〈翻訳〉とテクスト生成──舟木重雄「ゴオホの死」をめぐって──
1 〈ゴッホ神話〉の形成
2 〈神経衰弱小説〉の系譜
3 「ゴオホの死」における〈翻訳〉
4 結び──〈翻訳〉を拡張する初出一覧
あとがき
私小説研究文献目録
索引