日比嘉高研究室

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プライヴァシーの誕生──モデル小説のトラブル史

新曜社、2020年8月12日、308頁

目次

序 章 モデル小説とプライヴァシー
     1 モデル小説は何を引き起こすか 
     2 プライヴァシーは変化してきた
     3 文学からプライヴァシーを考える
     4 小説の言葉が行なうこと――転形、媒介、侵犯
     5 本書の概要 
第1章 モデル問題の登場――内田魯庵「破垣」の発禁と明治の社会小説
     1 「破垣」の発禁と内務大臣末松謙澄
     2 社会小説と諷刺――内田魯庵の文学
     3 筆誅の時代とスキャンダルの公共圏
     4 登場人物の類型的表現のもつ力
     5 境界の構築と小説
     6 発禁余波――内田魯庵の表現および文学者の感覚の変化
第2章 写実小説のジレンマ――トラブルメーカー島崎藤村自然主義描写
     1 藤村伝説 
     2 「はじめて産れたる双児の一」の発禁――「旧主人」 
     3 一九〇七年のモデル論議 
     4 モデル論議からみえる明治末の〈私的領域〉
     5 文学空間の変化――情報編成、読書慣習、窃視の好奇心
     6 〈藤村伝説〉の亀裂――「突貫」
     7 小説の暴力、好奇心の暴力――「新生」 
第3章 大正、文壇交友録の季節――漱石山脈の争乱Ⅰ
     1 大正期の文壇交友録小説と芥川龍之介「あの頃の自分の事」
     2 第四次『新思潮』派の紛擾と菊池寛「無名作家の日記」 
     3 芥川の仕掛けたもの――交友録小説と文壇の鳥瞰図 
     4 〈閉じた文壇〉論と私小説論 
     5 〈通俗〉への通路をさぐる 
第4章 破船事件と実話・ゴシップの時代――漱石山脈の争乱Ⅱ
     1 〈芸術〉か〈通俗〉か 
     2 久米正雄「破船」の戦略
     3 告白・実話・ゴシップ 
     4 松岡譲「憂鬱な愛人」の受難
     5 加速する大衆文化時代 
第5章 のぞき見する大衆――『講談倶楽部』の昭和戦前期スポーツ選手モデル小説
     1 問題のモデル小説
     2 水泳選手の受難――近藤経一の「傷ける人魚」 
     3 『講談倶楽部』の「実話」路線とスターの登用 
     4 大衆文化へと浸透するモデル小説
     5 野球狂時代
     6 三原脩と小説「青春涙多し」
     7 ヒーローは墜落する 
第6章 〈プライヴァシー〉の誕生――三島由紀夫「宴のあと」と戦後ゴシップ週刊誌
     1 「宴のあと」、訴えられる
     2 なぜプライヴァシー権は要請されたのか
     3 プライヴァシーの誕生と拡散
     4 プライヴァシー論議と文学の自画像
     5 作品と読者
     6 テクストは知っていた?
     7 公の裸体 
第7章 〈芸術性〉をいかに裁くか――昭和末、高橋治「名もなき道を」の勝訴
     1 唯一の小説家側勝訴例 
     2 高橋治「名もなき道を」とその訴訟
     3 モデル小説の〈芸術性〉をどう評価するか
     4 〈芸術性〉をめぐる法学者たちの見解
     5 二つの〈芸術性〉1――〈虚構化〉
     6 〈虚構化〉と読者
     7 二つの〈芸術性〉2――〈芸術的価値の高さ〉
     8 法の場における〈芸術性〉の再規定のために
第8章 モデル小説の黄昏――平成、柳美里石に泳ぐ魚」のデッドエンド
     1 「石に泳ぐ魚」裁判の経緯
     2 「時代の流れ」――法律家、文学者の分裂
     3 報道被害と個人情報の登場
     4 「宴のあと」のあと
     5 読むことの倫理、そして図書館の自由
終 章 ネット社会のプライヴァシーと表現
     1 プライヴァシーの変容
     2 創発する監視網
     3 自己情報のコントロールは可能か
     4 ネット時代の表現とプライヴァシー

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