例によって遅ればせながら紹介します。まずは、同僚の関係図書から。
名古屋大学で2009年1月に行われた同名のシンポジウムが元になった論文集。
ポップカルチャー、文学、マンガ、映画、アニメーション、写真、と
複数の領域をまたぐ論考が「戦後」――そもそもいつまでこの懐かしい呼び名を使う気だ?という提起もされている――を横断的検討している。目次は、
こちらから。
同僚の春日豊さんの大著。経済史については全くの門外漢だが、文学研究の角度からでも、植民地や移民地の文化状況について調べていれば、自ずとその土地での経済活動とは密接な連関があったことに気づかされる。とくに、大規模な会社、商店は、単なる私企業であっただけではなく、コミュニティーのリーダーの一角を担っていたし、日本政府としばしば密接な協働を行っていた。本書は
三井物産の戦前の植民地における展開を、詳細に追っていて外野の私にはとても勉強になる。
有元伸子さんの新著。一冊すべてこれ『
豊饒の海』の分析を行う、濃密な精読の書である。
ジェンダーを基軸にしつつ、「徴候的な読み」(
スピヴァック)によって、テクストの隠れていた一面をあぶり出していく。その手際は、文学作品の表現を読み込んでいくということのもつ可能性を、存分に教えてくれる。第1章では、人物関係図と時系列を丁寧に整理しつつ、それらが抱える矛盾とその意味を考察している。精読って、こういう地道かつ細かい作業が必須なんだよなぁ、とあらためて思わされるご労作。今後『
豊饒の海』を読む人は大いに助かること、請け合い。