日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

「大学ランキング。悔しかったら上げてみろ」

言いたい放題に言ってくれている記事について、一言だけ反論しておく。
kyoiku.yomiuri.co.jp

「(国立大は)運営費交付金の減額に逃げ込み、それを口実にやるべきことをやっていないのだ」
「大学ランキング。悔しかったら上げてみろ」

http://kyoiku.yomiuri.co.jp/torikumi/jitsuryoku/iken/contents/47.php

言っているのは、元文科相で、自民党教育再生実行本部高等教育部会主査の渡海紀三朗氏。

突っ込みどころ満載なので、関係者は読まれたし。笑えるが、こんな輩が与党の大学改革の枢要な位置にいるのだから笑えない。

言いたいことは山ほどあるが、一つだけ。

上記記事が言及している自民党 教育再生実行本部の第十次提言(2018.5.17 PDFはこちら)は、国立大は「適正な規模」に縮小せよという。再編や統合、学部の縮小などが想定されているらしい。背景にあるのは、予算の緊縮と、18歳人口の減少が主だろう。


だが、
①どうして「18歳人口」を基準に考える?
日本の大学進学率は、大学学部(現役)で、たった49.3%。
(平成28年度学校基本調査(確定値)による PDF
イノベーションイノベーションいうならば、大学進学率を上げて、知的生産に関わる人口の底上げを図るべきではないのか。

②どうして留学生をきちんと受け入れない?
勤務校では留学生の受け入れ上限を決めている。上限は、受入側のマンパワー(の不足)によって決まっている。つまり、担当教員や事務の人手が足りないので、来たい。という留学生を断っている。優秀であっても。
受け入れのための、学内スペースも足りていない。
要するに金がないから、受け入れたくても受け入れられないってことになっている。

③どうして18-22歳「以外」の大学生を増やさない?
リタイアした世代はいうまでもないが、仕事をしている世代だって、大学で学び直したいという希望を持っている人たちは少なからずいる。彼らが大学に来ないのは、仕事が極端に休みにくいからではないのか。

というわけで、18歳人口の減少を根拠にした大学規模の縮小論は、「大学に入るのは、日本人の、18歳現役の、高校生だけ」という隠れた前提があるので、簡単に乗ってはいけない。世界的に見たら、そんな大学入学者像こそがガラパゴスだ。改革したいんなら、そういう思い込みからまず改革しろ。

冒頭の記事に戻ると、相変わらず国立大の文系学部の縮小を考えているように見える。文系教育は私大がやれ、という。

何度でもいうが、国立大と同じ水準の私大が複数あるのは一握りの大都市だけだ。国立大から文系をなくしたら、地方の高等教育はものすごくいびつになるよ。