日比嘉高研究室

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「日本の歴史家を支持する声明」が出されている

海外の日本研究者たちによる、「日本の歴史家を支持する声明」が出されている。これは「二〇一五年三月、シカゴで開催されたアジア研究協会(AAS)定期年次大会のなかの公開フォーラムと、その後にメール会議の形で行われた日本研究者コミュニティ内の広範な議論によって生まれたもの」だという。

「日本の歴史家を支持する声明」はpdf版も出回っているが、次のwamのサイトが日本語版の全文文字データを抜き出していて、スマートフォンなどでは読みやすいと思う。wam-peace.org


全文を読めば分かることだが、いくつかコメントしておく。これは単なる日本政府批判ではない。右左どちらも誤解している人がいるようだが、声明は「日本だけでなく、韓国と中国の民族主義的な暴言によっても、あまりにゆがめられてきました」と言っている。つまり批判されているのは、民族主義による歴史の歪曲と、女性の尊厳に対する冒涜、政府や個人による歴史の操作・検閲・脅迫である。

声明からいくつか引用しておく。

「日本の研究者・同僚と同じように、私たちも過去のすべての痕跡を慎重に天秤に掛けて、歴史的文脈の中でそれに評価を下すことのみが、公正な歴史を生むと信じています。この種の作業は、民族やジェンダーによる偏見に染められてはならず、政府による操作や検閲、そして個人的脅迫からも自由でなければなりません。私たちは歴史研究の自由を守ります。そして、すべての国の政府がそれを尊重するよう呼びかけます。」

「特定の用語に焦点をあてて狭い法律的議論を重ねることや、被害者の証言に反論するためにきわめて限定された資料にこだわることは、被害者が被った残忍な行為から目を背け、彼女たちを搾取した非人道的制度を取り巻く、より広い文脈を無視することにほかなりません。」

「過去の過ちを認めるプロセスは民主主義社会を強化し、国と国のあいだの協力関係を養います。「慰安婦」問題の中核には女性の権利と尊厳があり、その解決は日本、東アジア、そして世界における男女同権に向けた歴史的な一歩となることでしょう。」

もちろん、呼びかけられているのは、潜在的には戦後七〇年に際して談話を出そうとしている現政権だろう。頼むからその歴史修正主義的立場の危うさを認識してもらいたいものである(祈)。

一方、顕在的に呼びかけられているのは「日本の歴史家」であるということもかみしめたい。これはsupportの声明なのだ。歴史をめぐる闘争の主戦場は、今ここ、私たちの国である。

そしてここで呼びかけられている「歴史家」は、専門研究者だけを指していると考えないでおきたい。歴史について考え、語り、学び、教えるものすべてが、歴史の自由をめぐるこの戦いの当事者である。