日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

「十九世紀文学研究会」発足

「十九世紀文学研究会」というのが発足するようです。転送歓迎のメールが回ってきましたので、以下勝手ながらここでもご紹介します。大事な問題設定ですね。

2009年末に岩波「文学」誌で〈十九世紀の文学〉を特集した際に、座談会を止めて執筆予定者が集まり数度の研究会を重ねて参りました。雑誌発刊後も、何とか研究会を継続したいという意見が出ましたが、諸事情で延引しておりました。今般、下記の趣意にて広く公開された研究会を発足させようと、発起人で話し合い、実現の見通しが立ちましたので、ご案内を差し上げた次第です。研究会の名称は「十九世紀文学」としましたが、もとより18世紀後半から20世紀前半を含めて考えて下さい。また「文学」という用語も大学の「文学部」の範疇に包含される程度には広く捉えて、日本語学はもとより歴史学や美術・音楽などの芸術学や哲学、さらには出版文化や外国文学をも含めて、ほぼ19世紀という範疇であれば、既定の専門の枠組みを越えて、知的な交流が出来ることを期待しています。また、「研究会」とはいうものの、会員も組織も存在しない自由意志に基づく参加者に拠る運動体とします。ですから、研究発表者や話題提供者が続く限りは研究「会」を継続して行くつもりです。しかし、組織が無いのですから、会費も会則もありませんし、現時点では会報や機関誌も考えておりません。ただ連絡用のメーリングリストだけを用意し、発起人が会場(と二次会)を設定するだけの「研究会」としたいと思って居ります。どうか、専門や世代を超えた知的刺戟に満ちた「研究会」とすべく、皆さまの積極的な参加を期待しております。取り敢えず、隗より始めよの顰みに倣って発起人の発表にて、以下の日程で研究会を開催します。

第一回
 日時 2014年6月14日(土)15:00〜17:30
 場所 法政大学市ヶ谷キャンパス(富士見坂校舎 F305教室)
 発表 「明治前期活版小説の出版」山田俊治(横浜市立大学
    「ギメ美術館蔵〔読本挿絵集〕」高木 元(千葉大学

第二回
 日時 2014年9月20日(土)15:00〜17:30
 場所 法政大学市ヶ谷キャンパス(ボアソナードタワー6F 610教室)
 発表 「植木枝盛の読書再論」谷川恵一国文学研究資料館
    「未定」中丸宣明(法政大学)

〈教室の場所〉http://www.hosei.ac.jp/images/access/ichigaya_03.jpg

第三回については2015年3月を、以後年2回(3月と9月)程度の開催を予定しています。また、第一回の会場にて、第三回以降の発表希望者を募りたいので、積極的なお申し出を期待しております。

                                                                                                                  • -

「十九世紀文学研究会」趣意書

 現在、一般的な文学史の時代区分によれば、明治維新をメルクマールとして、近世(前近代)と近代を区分している。この時代区分では文学史に大きな盲点を作り出してきたといえる。問題は、幕末維新期のあつかいにあった。つまり、これまでの文学史は、この十九世紀の中間期を欠落させて成立したものなのである。この時代を対象とした研究がなかったわけではないが、柳田泉興津要前田愛などの諸氏による業績は、現在でも再点検されないままで放置されてきてしまった。しかしながら、これらの業績が依拠したイデオロギーが、戦後文学に通底する「近代」を基準としたものであったことは否定できないだろう。こうして、幕末維新期は「近代」への過渡期とする発展史観によって塗り込めてきたわけである。もちろん、前近代/近代という時代区分自体も、そうした「近代」主義的発想に侵されたものであった。
 研究者自身もこの時代区分に異議をさしはさむことなく、日本近世文学研究/日本近代文学研究という垣根の中で、それぞれの専門分野を固守してきたのである。本研究会では、そうした発展史観を一旦留保して、専門の垣根を越えて、十九世紀という世界史的な時代区分に従うことで、この幕末維新期=過渡期という歴史観を解体し、発展史観の呪縛から自由になり、十九世紀という視座から「日本」文学の可能性を改めて見直してみようと思う。
 また、社会史的な視点から十九世紀の時代相を確認すれば、商業資本主義的経済の発展により各種商品の流通網が整備され、全国的に出版文化が浸透した世紀と捉えることができるだろう。それは、「文学の世俗化」という概念で捉え直すこともできるかもしれない。印刷技術や製本技術などのメディア環境の変化も、そうした「世俗化」を促す要因として理解することもできる。一方、社会状況の変化も見逃せないだろう。政治的に封建制下の「日本」という市場が、世界市場の中の国民国家「日本」となり、まさに十九世紀という世界史的な同時代性を獲得する時代でもあったのである。幕末維新期は、そうした社会経済史的な時代の転換点に位置し、その結果として文学が普く社会階層の隅々まで浸透することになったのである。その状況は、市民革命後の西欧社会とも連動する世界史的な変容として位置付けられるだろう。と同時に、十九世紀は現在を発展過程の最終形態とする文明史観が支配的になる時代でもあった。国学などによって甦った古典文化を伝統として美化するという自らの現在を歴史的に虚構化する視線によって文化の各層で歴史が求められたのである。そうした歴史についても留意しながら、十九世紀という枠組みのなかで、言語の問題から出版や芸能、ジャンル形成、文化の流通に渉る社会現象として広く文学を捉え直そうとする是がいまぜひ必要と考えられる。
 そこで、われわれは上記のような問題意識を共有する研究者が集い、相互の交流と協力を促進するとともに、研究上も独自な成果を公表し、国際的にも発信することを目指すものとしての「十九世紀文学研究会」立ち上げたく思います。是非ともこの趣旨にご賛同いただき、積極的に本会に参加いただければ幸いである。

                     発起人 山田俊治
                         谷川惠一
                         高木 元
                         中丸宣明
            連絡先  hokkinin_19c(@)fumikura.net

                                                                                                                  • -

付記
 差し上げたメールのアドレスは、我々が勝手に蒐集させて頂い たものです。【第一回に参加希望の方】、および今後も研究会開催の連絡を希望される方は、お名前とメールアドレスとを、hokkinin_19c(@)fumikura.net 宛てに返信して下さい。メーリングリスト 19c@fumikura.net に登録し、今後も研究会のご案内を差し上げたいと存じます。

また、本メールは〈転載歓迎〉です。積極的に「コピペ」してお知り合いの方々にお知らせ下さい。
                           以上