日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

絡みあう「並木」──日本近代文学と日系アメリカ移民の日本語文学──



『京都教育大学紀要』第109号, 2006年9月, pp.143-154

[紹介]

本論文は、日系アメリカ移民の日本語文学と日本近代文学との関係を考察するものである。日系アメリカ移民の第一世代──一世──は、早い時期から太平洋をまたぐ出版流通網を整備し、「日本語空間」を彼らのコミュニティに創り上げていた。一世の日本語文学は,この日本語空間の存在によって可能になったといえよう。本論で主たる分析対象としているのは、1910年に発表された岡蘆丘の「並木」という作品である。作品のタイトルは、島崎藤村の同名の小説「並木」に由来する。藤村における「並木」の語が、20世紀初頭の東京に生きる人々の心情の比喩として用いられているのに対し、岡のこの作品では、それは人種差別など厳しい経験をした米国移民を表象するべく奪用されている。