日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

「国立大学振興議員連盟」について少し情報が集まりました

「国立大学振議員連盟」とは何か

おとといぐらいに、Facebookで「国立大学振議員連盟」なるものができたことを教えてもらって興味をもちました。

知人を通じて横流ししてもらった「「国立大学振議員連盟」への入会及び総会のご案内」(平成27年5月28日)という文書によれば、以下のことがわかります。

発起人
衆議院議員河村建夫、斉藤鉄夫、渡海紀三朗塩谷立田村憲久遠藤利明、富岡勉
参議院議員中曽根弘文小坂憲次

公明党の斉藤鉄夫議員以外は、すべて自民党の方々です。私は詳しくありませんが、お名前から調べた限り、文部科学大臣や文部科学副大臣文部科学大臣政務官、衆議院文部科学委員長を務めた経験をお持ちの方々のようです。文教族、と呼んでよいのだと思います。

河村建夫議員が議員連盟の会長です。


同文書では次のように呼びかけています。

 我が国を取り巻く社会環境の変化は厳しく、新たな時代を切り開く人材育成、グローバル化イノベーションの創出、地方創成の実現にむけて、国立大学の果たす役割はますます高まっています。「知」の拠点である国立大学が卓越した研究力と質の高い教育力をもって、我が国が直面する諸課題の解決に最大限貢献しうるよう、その機能と財政基盤を一層強化する必要があると考えています。我々はこのような認識のもと、国家戦略として国立大学振興を強力に進めるため本議員連盟を立ち上げることといたしました。
 つきましては、ぜひとも「国立大学振議員連盟」の趣旨にご賛同いただき、ご入会及び第1回総会へご出席賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

とあります。

参加した大学

これに応えて入会・出席したのが次の30大学ということになります。(出典は国立大学協会の、この連盟に関するお知らせ記事です。下記の通り、国大協の会長副会長も出ていますし、国大協が公式に参加している議員連盟という位置づけのようです。
http://www.janu.jp/news/whatsnew/20150611-wnew-giren.html

国大協出席者 里見会長、片峰副会長、平野副会長、大西副会長
学長30名(北海道教育大学室蘭工業大学小樽商科大学北見工業大学岩手大学宮城教育大学山形大学福島大学東京医科歯科大学東京学芸大学電気通信大学一橋大学宇都宮大学群馬大学新潟大学上越教育大学、富山大学愛知教育大学名古屋工業大学、滋賀医科大学、京都教育大学、大阪教育大学奈良教育大学奈良女子大学鳥取大学岡山大学山口大学鳴門教育大学高知大学大分大学

なお、昨日行われた第2回総会には、金沢大学の山崎学長も来ていたそうです。(後述の馳浩議員のブログによる)

設立趣意書

同連盟の設立趣意書もコピーをもらいましたので、紹介します。

国立大学振議員連盟設立趣意書


 明治5年の学制発布以降、我が国は、自立と発展のため、教育と学術の振興を国策に掲げ、帝国大学や様々な官立学校を整備充実し、近代日本の建設を支えた。戦後、昭和24年の学制改革によって発足した国立大学は、高等教育の機会均等の要請に応えつつ、新生日本の人材養成を通じ、我が国の経済社会の発展と地域の振興に寄与するとともに、数々のノーベル賞受賞に代表される世界最高水準の独創的な研究成果を生み出してきた。

 平成16年、国立大学は、「国立大学法人」として新たな一歩を踏み出しそれぞれの強みや特色を生かした改革を着実に進めてきた。しかしながら、急速な少子高齢化グローバル化の発展、新興国の台頭による国際競争の激化など、我が国を取り巻く社会環境の変化は激しく、新たな時代を切り開く人材育成、グローバル化イノベーションの創出、地方創成の実現に向けて、国立大学の果たすべき役割の重要性はますます高まっている。諸外国に目を向ければ、大競争時代のなか、高度人材の要請とイノベーションの創出を担う大学の充実強化を戦略的に推進している。

 「大学力」は「国力」そのもの、と言われる。我が国は長年にわたる経済の低迷から着実に脱却しつつあるが、経済社会の重大な転換期において、我が国社会の活力や持続的な成長を確かなものとするためには、かつて先人が断行してきた国家戦略としての大学政策が不可欠である。特に、全ての都道府県に配置された「知」の拠点である国立大学が、学長のガバナンスの下に、卓越した研究力と質の高い教育力を通じ、各地域を含め我が国社会や世界が直面する諸課題の解決に最大限貢献しうるよう、その機能と財政基盤を一層強化する必要がある。

 我々はこのような認識に立って、幅広い関係者との連携の下、国立大学の機能強化と財政基盤強化の方策を検討し、国家戦略としての大学振興を強力に進めていくため、本議員連盟を設立するものである。

活動目標

具体的な活動目標も、掲げられているようです。こちらは資料そのものを手に入れていませんが、上記の案内及び趣意書の他にも別添資料があったらしく、活動目標として次のような項目もあげられているらしいです。

  • 国立大学法人運営費交付金の確実な措置
  • 寄付金受け入れ制度の整備
  • 各種競争的資金の安定的確保と間接経費の拡充
  • 学長ガバナンスに比重をおいた規制緩和
  • 国立大学附属病院に対する財政的支援


この議員連盟の総会の第2回が昨日(7月2日)開かれており、それに出席なさった馳浩議員(衆議院自民党)のブログでは、次のように書かれています。

この議連、わかりやすく言えば

①安定的な運営費交付金確保
②寄付税制拡充(税額控除)
③競争的研究費の確保
④附属病院の支援

など、概算要求に向けての要望とりまとめ。

http://ameblo.jp/hase-hiroshi/entry-12046012832.html

この動きを見て考えたこと

大学統制策の一つなのか

国大協のトップや、国立大学の学長たちが議員連盟の呼びかけに連なって国会(衆議院第1議員会館1階)に集まるということそれ自体が私には驚きでした。このニュースを目にした当初、私はまたぞろ国の大学統制策の新機軸かと思ったのですが――、そういうところもありそうですが、必ずしもそればかりとも言い切れなさそうです。

議員連盟の趣意や活動目標は、基本的に現政権による一連の「大学改革」の枠内に収まるようになっていますが、「安定的な運営費交付金措置」などは、国大協をはじめさまざまな大学の学長や評議委員会などが、声明まで出して訴えているところです。

ずらりとならんだ30大学の名前を見ると、苦しい運営状況が見えてくるような気さえします。紹介した馳議員のブログには

国大協からの窮状報告と、山形大学山口大学からの現状報告、文部科学省高等教育局からの報告あり。

国立大学の学長たちは、あんまり政治家とは接触しない方々なので、こうして国会に集まっていただいて、政治の役割を理解していただきたい。

そのうえで国立大学の窮状をアピールしていただきたい。

という一節がありました。具体的にはわかりませんが、おそらく国大協、山形大学山口大学は、具体的にどれくらい厳しいのかということをリポートしたのでしょう。

大学と政治的チャンネル

大学執行部は、基本的に文部科学省と向き合って、密接な「相談」を行いながら方針を決定していきます。議員という存在は、大学からすれば文部科学省以外の数少ない政治的チャンネルの一つです。和歌山県議会は今年、地元の和歌山大学を念頭に置きながら「地方国立大学に対する予算の充実を求める意見書(案)」(平成27年3月6日)を可決しています(賛成全員)が、これも和歌山大学が使った政治的チャンネルでしょう。
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/200100/www/html/giketu/wagi17-172.html

今回のは与党議員たちであり、文部科学大臣など文部行政のトップを経験した人たちの名前が発起人に並んでいます。大学がその意志を国の施策に反映させるチャンスだ――参加した大学の学長たちは、そう考えたのでしょう。

私は、大学が政治的チャンネルを利用する事自体は、当然だと思います。したがって、大学と議員のつながり自体を即否定する気はない。

もちろん憂慮する声もあります。私が最初に参照した情報源である嘉田由紀子(元滋賀県知事)さんのFacebookの記事は次のように言っています。
https://www.facebook.com/yukiko.kada.5/posts/429378317246714

そのような時になぜ自公国会議員だけをメンバーとする「議員連盟」を発足させそろって大学学長が同席をして何を目的に会合をするのでしょうか。大学こそ多様な価値観に基づき研究と教育の自由が追求されるべき場であり、なぜ野党議員はふくまれていないのでしょうか。そもそも国会議員の「議員連盟」が大学教育にどのような発言をしてくるのでしょうか?

嘉田さんは、この議員連盟が与党議員たちからだけなっていると指摘しながら(参加議員リストを見ていないので、私は未確認)、大学の中立性とはどのようなものであるべきか、という観点から論じておられます。

私はこのような議員連盟と国大協、各大学学長の会議がスタートしたことに居心地の悪さ――もう少しはっきりいえば気持ちの悪さを感じながら、この会議の意味を否定的にだけ即断できないとも思っています。希望的観測かもしれませんが、自民党文教族の重鎮たちがこういうことをはじめているのは、もしかしたら今の大学改革に、ある種の「行きすぎ」を感じているのかもしれない――。

これは、わかりません。私の想像はあまりにも楽観的で、現実はもっと厳しい、というのがたぶん正解でしょう。

ただこの会議の直接的成果はさておき、私が心配しているのは、国大協や参加した大学はこうした場が「諸刃の剣」になることを本当にわかっているのか、ということです。

与党議員に、現在の政権の枠組みに反するような動きがはたしてできるでしょうか。結局、大局的な趨勢は変えられず、駆け引きや請願によって局地戦でだけ小さな勝利や譲歩の引き出しを手にする、ということになりはしないでしょうか。そしてこうした会合を繰り返すことにより、大学は与党的な枠組みや価値観のなかに自己を適合させ、飼い慣らされていくのではないかと心配します。

政治的なチャンネルというのは、大学から国政にむけての一方向のチャンネルではないでしょう。それは逆向きのチャンネルにもなりうる。つまり、文部科学省経由ではない政治的な力が大学にかかってくる回路としても働きうる。それがこうした会議のもう一つの別の顔ではないでしょうか。

国立大の予算がまた減らされそうです

最後に、このことを調べている過程で、また憂鬱になる措置を知りましたので、紹介しておきます。

6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015-未来への投資・生産性革命-」(日本経済再生本部)というのがありますが、その中で大学改革が論じられています。リンク先の82ページ以降です。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai2_3jp.pdf

「特定研究大学」「卓越大学院」(仮称)などがニュースにもなっているので、ご存じある人もいるかもしれません。ここに「競争的研究費の改革」という項目があり、次のように書かれています。

競争的研究費の改革

近年、国立大学法人については、研究の多様性や基礎研究力の相対的低下といった問題が生じており、大学改革と研究資金改革の一体的推進が必要となっている。
このため、文部科学省及び内閣府の大学等に対する競争的研究費については来年度から新規採択案件について間接経費30%を措置する。また、総合科学技術・イノベーション会議の下で、関係府省の競争的研究費における間接経費の適切な措置等について年内に検討を開始し、来年度から順次実施する。

これについて、大学職員の方によるものらしいブログが、次のように書いていらっしゃいました。

競争的資金改革で、間接経費を拡大する、直接経費で中心研究者の人件費を支出可能にするという改革が行われることに、一定の意義はあろうが、要は運営費交付金が足りないので、その代替財源にするということにすぎず、そうした変更を行えば、今度は、直接的に研究に使用できる予算が目減りすることになる。学術研究の成果である論文指標でみる国際的地位の低下が、研究費不足によってますます進むのではないか?既に、私が勤務する大学では、27年度学内予算で、物件費を大幅に削減して人件費増を賄う措置を取らざるを得なかったが、国もこれと同じことをしようというわけである。一時しのぎならいざ知らず、こんなことを長く続けていけるとは思えない。大学の教育研究レベルが下がってしまうからである。

(「国立大学経営力戦略を文部科学省が策定できるのか?(4)(NUPSパンダのブログ)」)

http://nups-japan.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/post-31b6.html

私自身このくわしい仕組みを理解しているわけではありませんが、競争的資金の配分傾斜がきつくなる――つまり資金を獲得できたところはより潤沢になり、できなかったところはより枯渇するという事態が加速しそうです。

人件費は一番削りにくいので、その他が削られていきます。教員目線でいえば、研究費です。学生目線でいえば、設備や福利厚生。国立大の暗い廊下がますます暗くなるかもしれませんね。国立大の教員の年間研究費は、すでに10万を切っているところもあると聞きます。この前、東大の駒場の先生が属人的なデフォルト研究費は20万を切っているぐらいといっていて、東大でさえその状況かと驚きました。

国立大学経営力戦略

今回使いませんでしたが関係する動きとして、「国立大学経営力戦略」(文部科学省、平成27年6月16日)の資料のリンクを示しておきます。
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/06/24/1359095_02.pdf

「各国立大学の自己収入拡大を促進するための規制緩和」のことなどに触れられています。規制緩和は、議員連盟の活動目標の中にも入っているようです。

先の「『日本再興戦略』改訂2015-未来への投資・生産性革命-」、そして「国立大学経営力戦略」。ぜひ一度ご覧下さい。大学が、「稼ぐ」ための組織に変容させられようとしていることが、如実にわかります。

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大学の統制は、厳しい顔だけでは来ないでしょう。政府と大学双方の合作の産物として、手に手を携え、市場主義に最適化した「稼ぐ組織」への道を突き進む。「知」の拠点ならぬ、「銭」の拠点。そうならないことを祈るばかりです。


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(補足 2015.7.4)
松本純議員(衆議院、自民)のブログに、第2回総会の報告があり、内容が紹介されています。
松本純の国会奮戦記2015-07