日比嘉高研究室

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国立大の「理系シフト」と高校現場、そして親たち

「国立大学の文系学部縮小が高校や私立大学に与える影響」(「「大学・NPO経営」と「初めての子育て」」)というブログ記事を読んだ。
http://blog.livedoor.jp/kotolier/archives/51969042.html

この方の言っていることはうなずけない点がいくらか含まれているけれど、国立大学における人文・社会系の廃止・縮小という方向性=「理系シフト」が、受験という回路を通じて高校に波及する、というのは重要な観点だと思う。

地方の高校生の成績上位者は、近隣の国公立大学を目指す傾向が強い。したがって国立大の「理系シフト」はその層において強く影響が出る。理系志望の生徒が増えることは必定だが、同時に、文系志望がなお強い生徒たちにおいては大都市部の有名私立大を目指すか、それが不可能なら近隣の地方私立大学や、「地域に特化」した近隣国立大の学部を目指すかしかなくなる(「分野に特化」は文系ではほぼありえない)。

地方私立大や「地域特化型」に魅力を見いだす生徒は、とくに異議はなかろう。
大都市部が選べるならばその学生はハッピーだ。だが、経済的なハードルは高い。

問題は、偏差値や社会的評価の意味で「高い」レベルの大学の人文・社会系学部を目指していた生徒たちで、かつ大都市部に出ることが難しい生徒たちだ。彼等は現実的に、選ぶことのできる進路が限定されるか、悪くすればなくなる。

この状態が常態化すれば、当然賢い子はそういう道を早くから選ばなくなる。親たちも、我が子の将来のために「理系シフト」を当然のものとしていくだろう。わざわざ文系学部を選ぶ子は、「物好きな子」という扱いになっていくのではないか。

「理系シフト」は人や金の配置だけで起こるわけではない。私たちが内面化する価値観においても、起こってしまう。