日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

東京大学が軍事研究容認に舵を切った件

NHK以下が報じているニュースは以下:

東大大学院 軍事研究一定程度可能に
1月16日 11時54分

東京大学大学院の理科系の研究科が、去年12月、軍事に関わる研究を禁止するとしていたガイドラインを見直し、「軍事・平和利用の両義性を深く意識し、研究を進める」という内容に改めていたことが分かりました。
ガイドラインは研究の行き過ぎに歯止めもかけていますが、この研究科では今後、一定の程度、軍事研究を行えることになります。(以下略)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150116/t10014728731000.html

舵を切ったのは、東京大学大学院の情報理工学系研究科である。当該のガイドラインが公開されているので、リンクを貼っておく。引用は、該当条項の抜粋。

「学問研究の両義性
 本学歴代総長の評議会などでの発言に従い、本研究科でも、成果が非公開となる機密性の高い軍事を目的とする研究は行わないこととしています。共同研究の過程で、意図せずにそのような研究に関わってしまうおそれがありますので、注意してください。
 なお、多くの研究には、軍事利用・平和の両義性があります。本学では、個々の研究者の良識のもと、学問研究の両義性を深く意識しながら、個々の研究を進めることを方針としています。」

http://www.i.u-tokyo.ac.jp/edu/others/guideline.shtml

英語版

「Ambiguity of Scientific Research
As the Presidents of University of Tokyo have repeatedly stated, you may not carry out research for military purposes whose results are secret to the public. Care should be taken in research collaboration, which might include such a research.
Scientific research tends to be ambiguous, The University of Tokyo expects individual researchers to act sensibly, deeply considering the ambiguity.」

http://www.i.u-tokyo.ac.jp/edu/others/guideline.shtml

英語版の方がより簡略にみえる。「学問研究はambiguous(多義的・両義的・あいまい)でありがちである。東京大学は個々の研究者に、このambiguityに対し、敏感で思慮深く振る舞うことを期待する。」

学問研究や、そこから生まれた知見、技術が、多様な用途に用いられうることはたしかに真実である。GPS技術はカーナビにも軍事目的にも用いられている。

おそらく問題は、「軍事目的の研究かどうか」であり、より踏み込んで言えば「軍事関連企業からの寄付金を受け入れるか、そういった企業との〈産学軍連携活動〉を行うか」である。

この点で、東大情報理工学系研究科の改正ガイドラインには、問題がある。このガイドラインが禁じているのは「成果が非公開となる機密性の高い軍事を目的とする研究 research for military purposes whose results are secret to the public」であり、つまりこの研究科は ”成果が公開されるのであれば” 軍事目的の研究も許容するのであり、これに沿う共同研究や委託研究、技術移転、助言・指導、 技術・学術情報の提供、企業研究員の受け入れを行いうるということになる。

「軍事利用・平和の両義性」と言っているところにめくらましがあり、トリックがある。一見、納得できる言い回しだからだ。だが、このガイドライン改正の真のポイントはそこにない。”成果が公開される軍事研究については、東大情報理工学系研究科はこれを制限しない” というところこそが、問題である