最近いただいた本
多少溜まってしまっておりましたが、遅ればせながら紹介させていただきます。
- 作者: 竹内栄美子
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2009/10
- メディア: 新書
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平凡社新書から出ている「新書」なのだが、内容は重量級の研究書である。天皇制、新憲法、占領、朝鮮戦争、サークル運動、日中文化交流、共産党からの除名処分など、どれも中野研究のみならず戦後の思想史・文化史に取って重要な問題が並ぶ。個人的な好みをいえば、中野重治の文章は私のリズムから遠く、言っていることは面白いと思うのだが、とにかく咀嚼するのに時間がかかる。自然、敬遠したくなる。いや、必要に迫られれば、必要なだけ読みますけどね。中野重治の戦後の軌跡を1970年代までたどる本書は、そういうヨロシクナイ中野の読者である私のような者には、非常に助かる本である。しかも内容の質は折り紙付きである。竹内さんらしい、緻密かつ実証的な論述で、今後中野の戦後について研究する人はまず手に取ることになる本なのではないかと思う。
- 作者: 紅野謙介
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2009/10/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「河出ブックス」という新しいシリーズから出た、紅野謙介さんの単著。改造社およびその創業者山本實彦を軸にしながら、戦前の検閲の実態を検討する。膨大な資料への言及、それを位置づける視野の広さ、それを読みやすく書く技術――ほんと勉強になる。出版研究と文学研究をブリッジする先端的研究。とにかく買って読むべし。
なお価格1200円。この内容にしたら激安である。先の竹内さんの新書も、そして次に紹介する石原千秋さんの同じ「河出ブックス」からの新著も、安いのに、濃くてハイレベルだ。最近、本の企画や出版にいくつか関わるようになって分かってきたけれど、本の内容的レベルと値段設定の相関性は、思っている以上に無い。馬鹿みたいに高い本は間違いなく専門書だが、安い本が一般向けの「薄い」本かといえばそうではない。本の値段は、内容と読者の相関以外にも、出版社の規模(とくにどれだけ書店に置かせられるかという意味での)や、その社の方針(2000円の本を1000冊売るのか、10000円の本を200冊売るのか)などとということが、関係しているようだ。
新書とか○○ブックスのような形態の本が激増してから、近代文学研究の、従来ならハードカバーの「専門書」として出版される確率が高かった本が、そうしたなかにしばしば入るようになった。たいへん、ありがたい。自分はそういう媒体ではまだ書いたことがないのでよくわからないが、きっと文体を柔らかくしたりとか、注やデータの量が制限されたりと、苦労はあると思う。が、この値段で、この質の本が出るのは、研究者にとっても、一般の関心を持つ人々にとっても、嬉しいことであるには違いない。
- 作者: 石原千秋
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2009/10/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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石原さんの今年何冊目?の本。前半、読者論の諸種を、非常にわかりやすくかつコンパクトに圧縮して説明してくれている。この本だけを読んで済ませてはいけないが、近代文学研究で読者論がどう展開しうるかをサーベイできる。キーワードとして用いられている「内面の共同体」というネーミングもうまい。説明がしやすくなりそうな有用な言葉であると同時に、反論も一緒に考えたくなる。触発的な言葉だ。
- 作者: 石原千秋
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2009/11/17
- メディア: 新書
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石原さんの今年何さ(以下略)。石原さんがえらいのは、こういうエッセイ調でやっつけても書けそうな企画の本なのに、ちゃんと先行研究を引いてきて、それを踏まえたり反論したりするところである。もちろん、学術論文と同じようにすべての先行論に目を通してやっているわけではないだろうが(と思う。たぶん)、姿勢としてこの一線を手放すかどうかって、書き手のアイデンティティの問題として大きいじゃなかろうかと拝察する。
- 作者: 生方智子
- 出版社/メーカー: 翰林書房
- 発売日: 2009/12
- メディア: 単行本
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生方智子さんの単著。カバーのイラストが素敵なのだが、まだ画像が出ていないようで残念。これまでのご業績を集め、博士論文にまとめたものである。生方さんといえば、私にとっては漱石研究や明治後半期の描写論の領域で、先鋭的な論文を書いておられた少し前を走る先輩研究者(直接の先輩という意味ではないです)。その論文がまとめて読めるようになったのは嬉しい。タイトルについては、色々考えられたに違いない。明治大正の文学表現が、人間という存在を、そのわからなさや未知の力――「無意識」と本書では呼ばれる――まで含めて描こうとしたその挑戦を歴史的にとらえようとする。いわゆるラカンやフロイトなどの精神分析理論の応用とは異なる試みため、精神分析「以前」というネーミングになったのだろう。精神分析の本とは思わず、漱石研究、描写論、ジェンダー批評、文化研究の本として、手にとっていただきたい。(変な紹介だ(笑))
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著者の皆さん、ありがとうございました。