日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

『〈自己表象〉の文学史』第三版、刊行されました

f:id:hibi2007:20180325165903j:plain:right:w200 2002年の刊行以来ご好評をいただいている(自分で言うな)『〈自己表象〉の文学史――自分を書く小説の登場』の第三版が刊行されます。
第三版のポイントは、

  • 私小説研究文献目録が最新の状況にアップデートされた
  • ソフトカバーになった
  • 定価が 2900円+税 に値下げになった
  • 第三版あとがきがついた

であります。もうすぐ、書店店頭やネット書店で買えるようになると思います。


以下、書誌、第三版あとがきと、目次を掲げます。

書誌

発行日 2018年3月20日
発行所 翰林書房
ISBN 978-4-87737-420-4
総ページ 297頁

第三版あとがき

 本書『〈自己表象〉の文学史――自分を書く小説の登場――』は、二〇〇二年に初版が刊行された。筑波大学に提出した私の課程博士論文を公刊したものであった。それから一五年が経過したことになる。
 刊行時に、「自己表象」という言葉をめぐって、翰林書房の今井肇氏から、ややわかりにくいのではないかと再考を促されたことを思い出す。修士論文や博士論文の審査過程でも、先生方からいく度もこの言葉の意味の説明を求められた。当時、わずかな先例しか見い出すことのできなかった術語であり、ほぼ造語に近い感覚を与えるものだと自分でも認識していた。いま、この言葉は文学研究だけではなく、社会学や人類学、歴史学で時折見かける言葉となっている。もちろんそれは私のささやかなこの本の影響などではなく、「自己」を「表象」することをめぐる学術的な関心が、さまざまな領域において広がってきたということを示すものだろう。他者や周囲の環境に向かって、どのように自分自身の「現われ」を指し示すのか、その表象行為のなかにどのような戦略や駆け引きがあるのか、分野を問わず興味深い考察テーマでありえよう。
 この一五年間の私小説研究の状況は、盛況とはいえなかったが、停滞していたわけでもなかった。法政大学の私小説研究会とそのメンバーたちの活動があり、他の研究者の著作も継続的に現れている。車谷長吉(惜しくも二〇一五年に亡くなったが)やリービ英雄柳美里佐伯一麦西村賢太らの創作活動もある。詳しくは本書所収の私小説研究文献目録の増補分をご覧いただければ幸いである。
 学術出版をめぐる厳しい環境の中、第三版を刊行して下さった翰林書房の今井肇氏、静江氏には心から御礼を申し上げたい。相談の上、この版からソフトカバーとし、定価も大幅に下げることとしている。私小説の歴史に関心を持つ少しでも多くの方に、手に取っていただければ幸いである。

二〇一八年二月三日

目次

 [目次]
序 章 〈私小説起源論〉をこえて
  1 〈自分を書く〉ということ
  2 先行する評価群の整理
  3 〈私小説起源論〉の諸種
  4 批判と超克

第I部 〈自己表象〉の登場

 第1章 メディアと読書慣習の変容
 1-1 作品・作家情報・モデル情報の相関──明治三〇年代──
  1 『新声』と新声社の活動
  2 作家情報と作品の交差
  3 題材/モデル情報と作品の交差
  4 作家情報と題材/モデル情報

 1-2 「モデル問題」とメディア空間の変動──明治四〇年代──
  1 「モデル問題」の射程
  2 「モデル問題」の顛末
  3 「モデル問題」のもたらしたもの

 第2章 小説ジャンルの境界変動
  1 「自分を主人公として作つた」小説たち
  2 〈身辺小説〉の流行と〈自己表象テクスト〉の登場
  3 「蒲団」の読まれ方
  4 小説ジャンルの境界変動
  5 〈自己表象テクスト〉の出発

 第3章 〈文芸と人生〉論議と青年層の動向
  1 〈文芸と人生〉論議の推移
  2 青年たちの〈文芸と人生〉
  3 「人生観上の自然主義」という思想
  4 論議の行方

 第4章 〈自己〉を語る枠組み
 4-1 〈自我実現説〉と中等修身科教育
  1 〈自己〉への関心
  2 〈自我実現説〉とは何か
  3 中等修身科教育と〈自我実現説〉
  4 〈自己〉を語る枠組みの形成
  5 結び──〈自己〉・人格・芸術

 4-2 日露戦後の〈自己〉をめぐる言説
  1 「二潮交錯」
  2 〈自己〉論の三つの系統1 自己の文芸論
  3 〈自己〉論の三つの系統2 自己の描写論
  4 〈自己〉論の三つの系統3 自己の探求論
  5 〈自己〉論の隆盛と〈自己表象テクスト〉

 第5章 小結──〈自己表象〉の誕生、その意味と機能
  1 小結
  2 〈自己表象〉の再評価へ向けて
  3 〈自己表象〉の意味と機能

第II部 〈自己表象〉と明治末の文化空間

 第6章 自画像の問題系──東京美術学校『校友会月報』と卒業製作制度から──
  1 自分を描く小説と絵画
  2 東京美術学校西洋画科の卒業製作制度
  3 絵画の読み方──作品と「人格」
  4 〈自己〉への関心の広がり──校友会文学部と同時代の動向
  5 〈自画像の時代〉へ

 第7章 帰国直後の永井荷風──「芸術家」像の形成──
  1 ある〈肖像〉
  2 読書の慣習と新帰朝者
  3 『あめりか物語』から『ふらんす物語』へ
  4 「歓楽の人」荷風

 第8章 〈翻訳〉とテクスト生成──舟木重雄「ゴオホの死」をめぐって──
  1 〈ゴッホ神話〉の形成
  2 〈神経衰弱小説〉の系譜
  3 「ゴオホの死」における〈翻訳〉
  4 結び──〈翻訳〉を拡張する

 初出一覧
 あとがき
 私小説研究文献目録
 索引

「文化資源(コンテンツ)としての文学」横光利一文学会 第17回大会特集

17日(土)に以下の研究集会があります。私も登壇します。ご関心のある方は、ぜひ。

【告知】横光利一文学会 第17回大会
特集:文化資源(コンテンツ)としての文学

2018年 3月 17日(土) 12:30
日本近代文学館ホール

日比嘉高「文化資源となる文学、ならない文学――〝過疎の村〟で何ができるか」
芳賀祥子「「文豪」を愛するということ――女性読者による文豪キャラクターの受容」
大杉重男「『文豪とアルケミスト』に「転生」した「文豪」たち――「徳田秋声」と「横光利一」の比較から」

企画趣旨および各発表の要旨は、→ 横光利一文学会  「活動予定」でご覧になれます。

ディスカッサント 山岸郁子 / 司会 中沢弥

日比の発表要旨は以下のとおりです。

「資源(コンテンツ)」というキーワードを、ひとまず「文化資源」として捉え、考え始めてみる。文化資源を考えるためには、それを(1)資源化するプロセスとして考えること、(2)資源の価値と同時にそれを支える環境システムもあわせて考えること、(3)だれが何のために資源化するのかを考えること、が必要である。だが近代文学作品が「文化資源」と「なった」のだとしたら、それはいつから、なぜそうなったのか。「なった」作家・作品と「ならない」「まだ」の作家・作品があるならば、あるいは「なりやすい」それと「なりにくい」それがあるならば、それらを分けるものは何か。横光利一の場合は、どうか。
 考察においては、「コンテンツ」という語自体も切り口となる。これは書籍・映像・音楽・ゲームなどの内容を指す語であり、情報サービス業の提供する提供物のことだ。この語の文芸領域への浸潤のプロセスに、現代の文化環境の変化が読めるはずだ。
 「文化資源」言説は地域振興としばしば結託する。この図式を敷衍すれば純文学(とその研究)は過疎地域だという見立てが成立する。今回のシンポジウムは、さしずめ村おこしの会議イベントか。乗るか、背を向けるか。“過疎の村”で、何ができるか。

(取材協力)事実に基づかない政治という病:東京新聞

2018年3月2日の東京新聞 特報欄でコメントしています。ポスト真実的状況について。
下記の共著『「ポスト真実」の時代 「信じたいウソ」が「事実」に勝る世界をどう生き抜くか』に基づいた内容になっていますので、ご関心を持たれた方は、ぜひ。

東京新聞:事実に基づかない政治という病:特報(TOKYO Web)
リンク先は残念ながら前文のみ。記事全体は紙面でご覧下さい。中日新聞でも数日後の掲載と聞いています。
www.tokyo-np.co.jp


東アジアと同時代日本語文学フォーラムの告知サイトを公開

東アジアと同時代日本語文学フォーラムの告知サイトを公開しています。

https://eacjlforumweb.wixsite.com/eastasiaforum
f:id:hibi2007:20180222222432p:plain


今後、同フォーラムについてのさまざまな告知はこちらを中心に行います。

ポスト真実時代と市民社会(インタビュー)

以下の記事に協力しました。

ボランティア・市民活動情報誌『ネットワーク』352号,、2018年2月
<特集>
「情報」と「真実」の市民活動
 ◎巻頭インタビュー ポスト真実時代と市民社会 
  日比嘉高名古屋大学大学院 文学研究科 准教授)

https://www.tvac.or.jp/nw/

受付中★論文投稿者と学会発表者 東アジアと同時代日本語文学フォーラム

現在、東アジアと同時代日本語文学フォーラムでは、論文投稿者と学会発表者の募集をしています。
論文は2月17日が〆切。
発表者は、3月30日が〆切です。
詳しい要領は下記をご参照下さい。
https://eacjlforumweb.wixsite.com/eastasiaforum/blank-1

学会は上海の復旦大学2018年10月20-21日です。
特集テーマは「「レンタル」と近現代東アジア文化
基調講演は酒井直樹さんに内諾をいただいています!