日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

最近いただいた本 その2

芥川龍之介中国題材作品と病 (学術叢書)

芥川龍之介中国題材作品と病 (学術叢書)

孔月さんの博士論文が刊行された。彼女は私の大学院時代の後輩で、研究に関係することもないこともいろいろ思い出がある。先日いきなり本が届いて、喜んだ次第。

芥川と中国との関わりは、作家の中国訪問の問題から、題材の摂取の問題、知的素養の問題など、いろいろ論点が追求されてきているが、〈帝国〉と〈病〉を焦点にしたところが孔さんのオリジナルなところである。作品としては「酒虫」「南京の基督」「奇怪な再会」「将軍」「馬の脚」「湖南の扇」が取り上げられている。多少強引だったり、もう少し資料が欲しかったりするところはあるが、このテーマで一冊にまとまったことの意義は大きい。今後参照される本になるだろう。

物語のモラル―谷崎潤一郎・寺田寅彦など

物語のモラル―谷崎潤一郎・寺田寅彦など

千葉俊二さんにお送りいただいた。がっちりした論考から、軽いエッセイまで含んだ論考集である。気軽に読めるが、二つの点でかなり啓発された。一つは寺田寅彦複雑系科学の話。寺田寅彦は面白そうだと思いつつも、あまりまとめて読もうという気はなかったのだけれど、フラクタルなんかのカオス論の萌芽と関係づけて読むと面白いということを教えていただいた。また、東北の震災と原発事故の話と寺田寅彦も結びつけて論じた文章――中公文庫の解説――もある(寺田は「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉の作り手とされる)。二つめは「物語のモラル」。鴎外の「サフラン」に由来する言葉だ。千葉さんはバタフライ効果という、やはりカオス論の用語を用いながら、選択することのモラルという方向性で説明した。あるいは偶然性をどう引き受けるか、という問題であるのかもしれないと私は思う。いずれにしても、ひっかかる言葉だ。いつかしっかり考えてみたい種をいただいた気がする。