日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

最近いただいた本・雑誌

 お礼とご紹介が大変遅くなったものから、最近のものまでどどっと一気に。順不同になって恐縮です。


「戦後」というイデオロギー―歴史/記憶/文化

「戦後」というイデオロギー―歴史/記憶/文化

高榮蘭さんの単著。非常に密度の濃い一冊。幸徳秋水のテキストや、藤村「破戒」およびその改訂、中野重治の「雨の降る品川駅」、張赫宙という〈植民地スター〉、そして8月15日言説、金達寿と許南麒、占領期ポスターと「母」「パンパン」の表象、阿部和重シンセミア』ほかを取り上げつつ、暴力的な力のはざまにおかれた人や身体、テキストに、どのような痕跡が書き込まれているのかを、じりじりと読み解いていく。資料の収集、解読と批判意識とが密接に結びついた重量級の論考群。

グラウンド・ゼロを書く-日本文学と原爆-

グラウンド・ゼロを書く-日本文学と原爆-

翻訳チームに加わった、川口隆行さんと柳瀬善治さんからいただく。この本も重量級(字義通りに言っても・・・) この分野については知識が乏しいため個々の論考の質については云々できないが、こうした構えの大きい研究プロジェクトが要請されるアメリカの研究出版界の土壌というのは、過酷だけれどいいものだな、とあらためて思う。論述の進め方はわかりやすいとはいえないが、一筋縄ではいかない入り組んだ原爆の問題を、なんとか解きほぐし、言葉にしようとしたトリート氏の格闘の軌跡として、むしろこの本と美点したい。

うつろ舟―ブラジル日本人作家・松井太郎小説選

うつろ舟―ブラジル日本人作家・松井太郎小説選

ほとんど知られていないブラジルの日系人作家松井太郎の短編集。1917年生まれの著者は、まだ現役で活躍中という。西成彦さん細川周平さんのお二人からいただいた。日系ブラジル日本語文学の研究者といえば、というお二人の解説が付いていてうれしい。いま読み進めているところだが、面白い。〈外地〉の文化を考えるのは、やはり刺激的だ。

“主婦”の誕生―婦人雑誌と女性たちの近代

“主婦”の誕生―婦人雑誌と女性たちの近代

婦人雑誌を中心としたメディアとジェンダー論の研究をしておられる木村涼子さんからお送りいただいた。感謝。私が久米正雄とか松岡譲の小説と大正期ジャーナリズムのことを論文にしていたときに読んで勉強させてもらった論の数々が一冊にまとまっている。前田愛の『近代読者の成立』の大正期のあたりの記述を、より婦人雑誌の分析に踏み込み、ジェンダーの観点を精緻化して書き換えていくような本、とでもいうべきか。このあたりの領域をこれからする方には、避けて通れない一冊と思う。

太宰治101 (Library iichiko 107, 2010 SUMMER)

太宰治101 (Library iichiko 107, 2010 SUMMER)

水川敬章氏よりいただく。おやこんな雑誌に、という雑誌で組まれた特集だが、中身は(角度は色々だが)がっつり文学研究の論文が並ぶ。検索で目次がヒットしないようなのでお礼ついでにあげておこう。
「バベルの書簡――ミステリアス「虚構の春」(中村三春)、「〈象徴形式〉としての能舞台――太宰治「薄明」を中心に」(大國眞希)、「信と歓喜――昭和15年の善蔵とメロス」(高橋秀太郎)、「〈人間失格〉ノート――名作小説の漫画を読んでみる」(榊原理智)「自意識と非自己――太宰治の哲学(2) 文学における〈自己表象〉という転倒」(山本哲士)、「ふたつの中心、あるいはひとつの中心――1931年3月の太宰治花田清輝中野重治」(竹内栄美子)、「太宰治「斜陽」論――母性保護論争と「道徳革命」」(岡村知子)、「太宰治、リパッケージそして、『嫌われ松子の一生』(水川敬章)。さらに太宰治101――初版本と研究文献」がつく。

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『論潮』第3号、2010年7月、論潮の会

http://ronchou.moo.jp/main.html

 第3号まで来た研究同人誌。今号では、巻頭の鈴木暁世氏の「明治期におけるアイルランド文学受容の概観――雑誌記事の調査を中心として――」が、『太陽』『早稲田文学』『帝国文学』『スバル』などの諸雑誌を網羅的に調査して、労作である。着実な論考が多い、いい研究誌だと思う。