日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

コロナ禍の大学キャンパス、およびオンライン授業3ヶ月経過後の授業アンケートの結果

コロナ禍の中の大学キャンパス

この記事は、Twitterで「#大学生の日常も大事だ」というハッシュタグが注目を集めている中で書いています。

最初、以下で紹介する私の授業アンケートの結果と、ハッシュタグで並ぶ大学生たちの訴えは、けっこう違うな、という感想を持っていました。
しかし考えてみれば、私が取ったアンケートは「授業についてのアンケート」であって「大学生活についてのアンケート」ではない。少し前に、Twitterだと思いますが「オンライン授業には廊下がない」というような発言を見て、至言だと思いました。ここでいう「廊下」は、「すきま」であり「あそび」です。「すきま」や「あそび」は、大事です。根源的に、大事。

オンライン授業について、私は好感も持っていて、可能性も感じています。私のいくつかの授業には、海外から聴講している学生がいます。対面授業であっては、考えられないことです。情報検索の授業をしたときには、授業とネットの世界(含むデジタル資料)がダイレクトにつながる利点を痛感しました。オンライン授業は、あきらかに大学の未来形の一つです。その可能性は伸ばすべきです。

一方、オンライン授業は教員側から言っても味気ない。顔を消した学生たち、名前だけがマス目のように並ぶ画面の前で熱弁を振るいながら、ふと「おれはいったいなにをしているんだ」と我に返ってしまう。「ミーティングを閉じますか」ボタンを押してクラスの空間が消え失せた後の、突然目が覚めたような、取り残されたような、あの落ち着かなさ。
対面であれば、お互いの息づかいがわかったし、授業が終わったあとの余韻があった。その余韻の中で質問に来る学生はいたし、雑談をする学生たちもいた。

キャンパスが恋しい、という学生たちの気持ちは、痛いほどわかる。私も、大学のキャンパスが好きだった学生の一人だったから。食堂や授業前後の教室や、廊下での馬鹿話が好きだったから。学生の居室だった研究室で先輩後輩、仲間と苦楽をともにした経験を持っているから。

ハッシュタグを使って、大学に行きたいと訴える学生の気持ちをわからない大学関係者なんて、実際には少数派だと思う。みんな学生だったんだよ。だから、「君らが何を奪われているのか」、よくわかるつもりだ。けれど、今は、難しい。いまこのタイミングで、たとえば東京で、対面に踏み切った場合、まず間違いなく大きなクラスタが発生する。そしてそれはとてつもなく大きなダメージを、自分にも周囲にも与えてしまう。完全解禁は、できない。

私たちは、知恵を絞って、大学に「キャンパス」を取り戻さなくてはならない。そこは、構成員のすべてが、その滞在時間のすべてを過ごす場である。勉強をし、対話をし、食事をし、なんなら昼寝をし、考え、笑い、悲しみ、出会い、別れる場である。

対面かオンラインか、という二択だけが我々の選択肢ではないはずだ。廊下や広場やベンチや食堂や購買や図書館や、そうしたすべてが「キャンパスの経験」を形作る。感染を避けながら、キャンパスを取り戻す、そんな賢い選択のために知恵を集めよう。

オンライン授業3ヶ月経過後の授業アンケートの結果

さて、ここからは授業アンケートの結果です。

私の勤務校でも、2020年の前期は全面的にオンライン授業でした。私にとっても学生にとっても初めての経験であり、オンラインでの授業がうまくいっているのかどうか、確かめたくて授業アンケートを採りました。規模の小さな私的調査ではありますが、参考までに以下に結果を公開します。(なお 公開にあたっては、「無記名で行います。成績とは関係しません。アンケートの結果を個人が特定されない形で、公表することがあります。」と学生に事前に周知しています。)


アンケート対象クラスの概要

アンケートを採ったクラスは次のようなクラスです。

  • 授業は「近現代文学研究入門」という学部向け2年生以上配当の講義系科目。教職免許関連。文学部開講。
  • 出席者は平均30名弱。アンケート回答総数26
  • 回答者の属性は、学部3・4年生19名、修士1年生5名、研究生1名、聴講生1名。全員が人文学を中心とした人社系。
  • アンケート実施日は7月9日。オンライン授業を開始してほぼ3ヶ月後。

以下、結果です。日比の感想は最後に書いてあります。

アンケートの結果

授業に固有の質問項目など、結果の紹介を省略した項目もあります。なお、質問項目の作成に当たっては、ノートルダム女子大学が行った類似のアンケートを参考にしました。感謝です。

2.「近現代文学研究入門」のオンライン授業をこれまで受けて、授業としての「満足度」を5段階で評価して下さい。

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3.大学でのさまざまなオンライン授業を受けて,授業としての「満足度」を5段階で総合的に評価して下さい。

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4.あなたが現在受けているオンライン授業の形式を教えて下さい。(複数回答)

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Google Formsの自動集計で表示が欠けた項目は以下のとおりです。下から4番目「ZOOM、スライド・資料の配付」。下から2番目「LMSでPDF資料配付(音声データ等なし)、それについての課題を毎回提出。」

5.オンライン授業で困っていることについて,選択して下さい。(複数回答)

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欠けた項目:上から3番目7.7%「LMSなどの使い方がわからない。」上から5番目23.1%「ネット環境が十分ではない。」真ん中30.8%「オンライン授業・教材に取り組む時間がない。」下から6番目53.8%「ともだちと一緒に学べず孤立感を感じる。」下から4番目「授業内の議論を引き継ぐアンオフィシャルな場がない。」下から2番目「不十分、とは言えないがネット接続がたまに不安定になる。」下から2番目「学校の図書館に本を借りに行きたいのだが、ライブ配信での授業が一日に一コマはあり、なかなか開館時間に行けるタイミングがない。」

6.オンライン授業で良かったと思うことについて,選択して下さい。(複数回答)

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欠けた項目:下から4番目「コンピュータやオンラインのツールについて知識やスキルが高まる。」下から2番目「ZOOMの小部屋が、h時とをランダムに振り分けるので、いろんな人と意見交流ができて楽しい。(対面だと、相手が固定になりがちなので)」

8.オンライン授業と比較して、これまで受けていた対面授業の良かったと思うこと、よくなかったと思うことについて自由に書いて下さい。
  • 対面の方が、ささいなことでも友人と相談したり、質問したりできた
  • 良かった点は、対面授業は受ける時間が決まっているので、後回しにすることがないこと。授業が終わったら集中できる環境の整った図書館で課題ができること。良くなかった点は、授業時間外で質問をすることにためらいが生じること。
  • 対面のほうが集中できるが、やはり通学時間が無くなったことで自由になる時間が増えた。
  • 対面授業だと授業前後に質問ができるので良い。
  • 家が遠いので通学時間がかからないことが助かります。周りの人との意見交換がしにくいところが難点だと思います。
  • オンライン授業だと、ギリギリまで寝ていられたり、家で他のことをしていられるので、精神的にも体力的にも楽です。しかし、オンライン授業は教員も学生も慣れていないため、対面授業よりも手こずったり、ツールの使い方がわからなかったりして、授業の内容の充実度がイマイチな印象があります。
  • 正直な話、オンライン授業で事足りる授業もありますが、ずーっと家にいてたまにパソコンに向かって授業を受けるだけだと、学生としての生活があまり充実していないように感じます。
  • ディスカッションは、対面の授業の方がしやすい。それに対して、ディスカッションなどがない講義形式の授業は、集まってする必要性があるのか疑問に感じるようになった。
  • 対面の授業より集中できる
  • ゼミを例として挙げると、コメントしやすくなった気がします。しかし、ディスカッションは、やはり対面授業のほうがもっとやりやすいと思います。
  • オンライン授業のメリットとして、交通費と通学費の節約ができることと、端末機器さえあれば空間的節約がなくなり、海外でも授業に参加できるという点などが挙げられます。一方、デメリットとしては、新入生は学校への所属感などが弱いということがあると考えます。
  • 対面授業は緊張感が高いため、集中できるのがメリットであるが、オンラインのほうが、リラックスで自由に考えることができる。
  • 対面授業では議論が円滑にできることが良いと思います。ZOOMでは複数人が同時に発言すると音声が混ざって聞き取りにくくなり、そのために一人ずつ話すことになるので、議論のテンポが遅いような気がします。
  • 私は椅子に座ると体が痛くなるタイプなので、好きなように姿勢を崩せるオンライン授業の方が楽で良いなと思います。
  • 先生が生徒の反応を授業に取り入れているので分かりやすかった。
  • よくも悪くも個々の存在が目立たないという点で対面授業は好ましい。一方で講義ごとに場所を移動したり、授業時における講義型活動と演習型活動の切り替えをしたりするのに時間がかかるという点では対面授業は優れない。
  • 同じ授業を受けている人と知り合いになれることは良かった。通学時間が掛かったりメールで済むことを授業内に時間を取って行うのは良くなかった。
  • 公式な場で言えなかったことを授業後に言い合える場があることは、対面の良さであると思う。
  • 友人といっしょに過ごせることです。レポートを書く時、テスト勉強する時、やはり2人以上でやった方が進みます。
  • 休憩時間にわからないことをすぐに周りのクラスメートに教えを請うことができるし、交流する機会がある。
  • 大講義室で行うような授業はオンラインのほうが時間的な融通を利かせられて便利な時もあるが、特に、研究室で行うような演習などでは不便。対面のほうが質疑応答や議論がしやすい。古典の本などは電子書籍やPDFでなく、やはり実際に手に取って見たい。
  • 我々の反応を見ていただいて、授業のスピードや説明のレベルを対応していただける。
  • 利点:雑談が入ることや、それに対して反応できること。授業前後で友人と近況を報告し、情報交換できること。みんながどんなテンションでこの授業を受けているかが分かること。 よくなかったこと:発言することに抵抗があり、議論が活発にならないこと。教室や昼食の移動時間やすきま時間にあまり何も出来ないこと。(机がある場所に移動したり、鞄から荷物を取り出して、作業する環境を整えたりして落ち着いて集中できるようになるまでの時間が意外にも無駄にとられていた。)
  • 自宅が大学の近くではないので通学時間がかからないのはありがたいですが、はやく対面に戻ってほしいです。質問しづらかったり、課題のみだったりして、ある意味楽なのかもしれませんが、困ることが多いです。
  • 意見の共有が気軽に行えることが良いところだと思う。
  • 対面だと自分の体調が悪かったりするとその授業を受けられないが、オンラインのオンデマンドなどの方式であれば自分の都合に合わせられる。
9.あなたは対面授業が可能になったあと、大学でどのように授業を受けたいですか。

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欠けた%:緑7.7%「すべての授業を対面で受けたい」紫3.8%「演習は対面、講義系はオンラインがいい。」水色3.8%「演習形式のものは対面、講義形式のものはオンラインが良いが、移動時間を考えるとどちらかに統一してほしい。」

10.9でそのように応えた理由を書いて下さい。

この項目は8の回答と結び付けないと、本来読めないのですが、すいません今力尽きています…

  • 基本的にはオンラインで授業が成り立っているように思うが、話し合いなどのグループワークの際はやはり対面の方が話しやすいため。
  • ずっと家にいるとやる気も集中力も下がるから。
  • 特に人数の多い講義式の授業はオンラインのほうがいいと思ったから。
  • 討論が活発な授業や実習等は対面のほうが良いと思いますが、講義形式はオンラインでも比較的快適に受けることができます。それぞれ利点はあるのですが、どちらかに統一してもらえた方が助かります。
  • 〔…〕市外に住んでいるため自宅と実習を行う●●が遠く、2限のライブ配信型の講義を自宅で受けていると3限の実習に間に合わなくなってしまうので、大学に登校して2限の講義を受けています。これが少し不便です。同様に自宅と大学も遠いので、同じ曜日にオンライン授業と対面授業が開講されると、移動が厳しいかなと思います。
  • 通学時間の関係で時間的な面ではオンラインのほうが嬉しいが、話し合いや意見交換は対面でやりたいから。
  • 教室という同じ空間で授業を行うことによって、同じ空気感を共有できるから。
  • また、教室にいる方が、気を引き締めることができて、より集中できるから。
  • ゼミなどは対面でやりたいと思ったが、通学時間のことを考えると、講義形式の授業は、これまで通りオンラインで受けたいと感じた。
  • せっかくなので大学に行きたい
  • 本当に個人的な感想ですが。対面授業が好みですが、一限目の授業が苦手で、昼休みの習慣もあります。
  • 通学をしないことで経済的、時間的、さらに体力的にもメリットが大きいと思います。特に、外国人留学生にとって母国でも受講できることは、かなり負担を減らすので、もっと日本留学にチャレンジしやすくなると思います。
  • 人数の多い授業、一方的な講義など、対面でやることとオンライとは、あまり変わらないと思う、オンライのほうが便利。
  • 対人関係が苦手だから
  • 対面授業のほうが、ゼミなどの議論形式の授業を円滑にできると考えているから。
  • 演習の資料共有を紙で行いたいから。
  • 自宅が学校から少し遠いので、出来るだけオンラインでやれた方が楽だから。
  • 移動時間が削減されたり(講義によっては)授業時間に縛られなかったりする点でオンライン授業がよいと考えるから。ただし、- - 実験をしたり、受講者で論文や書籍など画面共有による提示が難しい教材を共有したりする際には、対面授業を行う必要があると考える。
  • 多くの人と会うのはストレスに感じるためオンライン授業をメインで受けたい。しかし対面の方が伝わりやすいこともあるため、織り交ぜた授業が理想的である。
  • 対面授業の方が精神衛生上よいため(ネット接続の不安、議論する際に相手の目が見えない不安)
  • 通学は2時間かかってしまうから。ただ演習系は対面の方がわかりやすくていいなと思う。講義はオンラインでも十分かなと思った。
  • 通学時間を節約し、昼ごろに充分な休憩を取ることが可能になるので、午後の授業に集中できる。
  • 8で答えたように、授業によって内容が違うからオンラインのほうが楽な場合もあるが、先生の顔も声も教室の雰囲気もわからないよりも対面のほうが記憶に残りやすいと思う。また、オンラインだと適当に見るだけのこともある。
  • 8.に記載したことに加え、資料の打ち出しが大変。また、その資料が読みにくい場合、対面だと先生へ直接問い合わせることが可能。
  • オンラインでのメリットは工夫次第で対面でも実現させることができる。半分要望でもあるが、学部生にも空いた時間に自由に使える研究室があれば集中する環境は整えられるし、議論をするのが当たり前の風潮になれば対面の方が議論はしやすいのではないか。
  • オンライン授業と対面授業と、授業によって選べるとありがたいと感じたからです。
  • スライドを用いた講義形式のものはオンラインの方が集中できる環境を作りやすかったから。一方、意見を共有したりすることを授業内で行うときは対面授業がよいと思う。

アンケートについての日比の感想

受講生たちの観察は冷静で、正確だと思いました。講義系の科目はオンラインに切り替えてもデメリットがさほどない。むしろ大教室での受講比較すれば、板書やモニタの近さ、教員との距離感から利点が大きい。LMSの利用が前提となるので、資料配付や出席管理など、大人数教室の負荷も軽減できる。一方、演習・ゼミ系は人間関係の経験・蓄積が学びに結びついている傾向が強いところもあって、やはり対面が効果が高いと思う。
距離を超えられ、時間を省略できるという利点も、やはりすばらしい。教室の空間が、地理的空間に縛られないから、海外からだって受講できる。また学生たちが書いていたように、長い通勤通学時間がないのは、ありがたいですね。
一方で、オンラインと対面とどちらが良いかという問いのかたちにした場合(問9)、意見は分かれます。それは当然でしょう。人付き合いの仕方に好みがあり、居住環境やネット環境の違いがあるわけですから。ただし、9割近くの学生がオンライン/対面が併存する状態を希望しているということが見て取れます(2020.7.16 08:33 この1文追記)。それを考えても、オンラインか対面かの二者択一は、ふさわしくないと思います。両者の強みを最大に発揮していけるようなハイブリッドなかたちを、これからの大学の授業は模索していくべきでしょう。

大学院説明会 2020年7月

名古屋大学大学院人文学研究科の大学院説明会は、オンライン(動画やメール、ZOOM等)で行われます。私や飯田祐子さんの所属する日本文化学講座の受験をお考えの皆さんは、ぜひお立ち寄り下さい。

日本文化学講座の個別相談もあります。

  • メールでの受付期間は7月1日~7月15日。
  • ZOOMによる講座説明会が7月17日19時~20時。

ZOOM説明会の出席希望者は、事前の申請が必要です。下のリンク先、「個別相談について」で詳細を確認して下さい。

www.hum.nagoya-u.ac.jp

統制経済と書物流通──帝国の国策書籍配給会社

『人文学研究論集』名古屋大学、第3号、2020年3月、pp.335-350

Title: Book distribution and the controlled economy: On the national book distributors of the Japanese Empire

後日、以下の名古屋大学附属図書館のリポジトリで、全文が読めるようになるはずです。
nagoya.repo.nii.ac.jp


要旨
アジア太平洋戦争期の経済統制については、主に経済史の分野において、統制の思想的背景や製造部門を中心とした生産や流通・配給制度の実態に関する研究が積み重ねられてきた。一方、出版文化史においても、検閲や言論統制、戦争協力、用紙統制などに関してさまざまな蓄積があり、本論で論じる書物流通の国家統制に関しても日本および「満洲国」に関して考察が行われてきた。しかしながら、出版統制とその外枠である統制経済全般に関わる国家的施策との関係は、ほとんど考察されていない。この論考では、統制経済総体における書物流通の位置付け、国家の統制と民業である取次業や小売業との関係、そして配給という仕組みと「ビジネス」との差異という三点を焦点としながら、戦時期の植民地帝国日本における書物の配給統制のあり方を再考する。本論の考察の結果、日本出版配給株式会社(日配)や満洲書籍配給株式会社(満配)などといった出版物の一元的配給会社と、統制経済の各施策との関係が明らかにされたほか、国家統制の動きと平行するように自ら業界有力組織による統制を求める動きがあったことを指摘した。また先行研究のいう日配が戦後の書物流通体制を準備したという見取り図には、日配が「会社」ではあったものの営利自体を目的としていなかったという点において、大きな留保が必要であることを論じた。この成果は、引き続き戦時下における小売書店の統制(企業整備)の歴史につなげて考察される必要があり、また「満洲国」や朝鮮半島、台湾、樺太、南洋などにおける統制経済と書物流通の関係へも広げていくことが可能である。

Abstract:
distribution in the controlled economy as a whole, the relationship between the national control of economy and private businesses such as wholesalers and retailers of books, and the difference between the national system of haikyū (distribution) and profit-seeking business. I clarify the connection between national policies concerning the controlled economy and the establishment of book distribution companies such as the Japan Publication Distribution Co., Ltd. (Nippai) and Manchuria Book Distribution Co., Ltd. (Manpai). Additionally, I demonstrate that, paralleling national economic controls, important publishing business organizations actively sought to create industry controls. Lastly, I argue that because the accepted narrative which positions Nippai as the precursor to postwar book distribution systems requires serious reconsideration because it is based on the misapprehension of Nippai as a profit-seeking business.

Keywords:
controlled economy, book distribution, Japan Publication Distribution Co., Ltd. (Nippai), Manchuria Book Distribution Co., Ltd. (Manpai), distribution (haikyū)

キーワード:
統制経済,、書物流通、日本出版配給株式会社(日配)、満洲書籍配給株式会社(満配)、配給

「満洲」の本屋たち──満洲書籍配給株式会社成立まで

『Intelligence』20世紀メディア研究所、第20号、2020年3月、pp.102-117

Title: Bookstores in Manchuria before the establishment of Manchuria Book Distribution Co., Ltd.

和文要旨:
この論考では、「満洲」における日本語書籍の小売史を考える。主たる対象となるのは日本語の書物を扱った書籍店である。とりわけ、これまでほとんど手をつけられてこなかった「満洲国」成立以前の小売書店の歴史を考えている。導入部のあと、第2節において日露戦争以後の小売店の進出状況を確認し、第3節で満洲全域における小売書店の分布を見渡した。第4節で満洲書籍(雑誌)商組合の成立とその働きを論じ、第5節で小売書店の営業のさまを書店登場の時期および地理的な分布の状況に目を配りながら概観した。第6節では、各小売書店およびその店主のプロフィールを一瞥した。以上は、満洲地域(ここでは関東州を含む)、そして「満洲国」の日本語文化を規定した社会的基盤を考える基礎的かつ重要な作業であり、出版文化史のみならず、広く満洲の知的文化の広がりに関心を持つ歴史的な研究に対して、広範な知見を提供するものと考える。

English abstract:
This paper considers the history of Japanese retail bookstores in Manchuria, focusing on Japanese-language books, particularly before the establishment of the “Manchukuo.” After the introduction, Section 2 explores the state of retail stores after the Russo-Japanese War, and Section 3 surveys the distribution of retail stores across Manchuria. Section 4 discusses the foundation and function of the merchant union of bookstores in Manchuria, and Section 5 gives an overview of the retail bookstore business, paying attention to the time of bookstore establishment and geographical distribution. Section 6 presents a quick look at the profiles of bookstores and their owners.

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大幅更新 「近現代文学研究関連の情報収集」

ほぼ2年ぶりぐらいに、自分自身のウェブページ「近現代文学研究関連の情報収集」と「[演習発表用]文献の集め方」を更新しました。

park18.wakwak.com
park18.wakwak.com

どちらも、近現代を中心とした日本文学研究に関わる文献収集のためのリンク集とその解説のページです。前者がフル・バージョンで、後者は学部の授業を念頭に置いた、その簡易版という位置づけです。

今回の更新では、

  • リンク切れの修正
  • デザインの刷新
  • 「その他の関連資料を探す」の追加をはじめとした新情報の追加
  • ページタイトルを「近代」から「近現代」に変更

を行っています。

このページは、更新履歴を見ると、2001年に作ったようです。もう20年近いのですねぇ。そりゃ、いろいろ変わるはずですね・・・。ちょっといろいろ思い出したから、twitterにつぶやくかな。

作家の進化を示す欲張りで充実した連作小説(李琴峰『ポラリスの降り注ぐ夜』書評)

『すばる』42巻5号、2020年4月6日、pp.318-319

すばる五月号に、李琴峰さんの『ポラリスの降り注ぐ夜』の書評を書きました。
出だしはこんな感じ。ぜひ手に取ってみて下さい。

 セクシュアル・マイノリティたちの生と性をめぐる物語と言ったらよいのだろうか、それとも台湾出身の越境的作家による日本語文学と呼べばよいのだろうか、あるいは〈ポラリス〉というレズビアン・バーを舞台とした短編連作小説とまとめればよいのだろうか、むしろ新宿二丁目という街の物語といっそ称してみてもよいのだろうか。そのいずれでもある『ポラリスが降り注ぐ夜』は、小説家李琴峰の最近作だが、おそらくは彼女の初期を代表する一作になる。力の入った良作だ。
 そのおもしろさをどう表現すればよいだろうか。筋や謎解きによるいわゆるエンターテインメント系のおもしろさではないし、言語の表層で勝負する文体のおもしろさでもない。意外かもしれないが、「ガイダンス系」のおもしろさ、と表現するのがいいかもしれない。

李さんはコロナ禍まっただ中の今、この本の売り上げの一部を、新宿二丁目のお店に寄付するという取り組みもされています。
note.com

The New York Times にコメントが載った件

Twitterやネットで書き散らしていると、たまに面白いことが起こります。