日比嘉高研究室

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作家の進化を示す欲張りで充実した連作小説(李琴峰『ポラリスの降り注ぐ夜』書評)

『すばる』42巻5号、2020年4月6日、pp.318-319

すばる五月号に、李琴峰さんの『ポラリスの降り注ぐ夜』の書評を書きました。
出だしはこんな感じ。ぜひ手に取ってみて下さい。

 セクシュアル・マイノリティたちの生と性をめぐる物語と言ったらよいのだろうか、それとも台湾出身の越境的作家による日本語文学と呼べばよいのだろうか、あるいは〈ポラリス〉というレズビアン・バーを舞台とした短編連作小説とまとめればよいのだろうか、むしろ新宿二丁目という街の物語といっそ称してみてもよいのだろうか。そのいずれでもある『ポラリスが降り注ぐ夜』は、小説家李琴峰の最近作だが、おそらくは彼女の初期を代表する一作になる。力の入った良作だ。
 そのおもしろさをどう表現すればよいだろうか。筋や謎解きによるいわゆるエンターテインメント系のおもしろさではないし、言語の表層で勝負する文体のおもしろさでもない。意外かもしれないが、「ガイダンス系」のおもしろさ、と表現するのがいいかもしれない。

李さんはコロナ禍まっただ中の今、この本の売り上げの一部を、新宿二丁目のお店に寄付するという取り組みもされています。
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