日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

N国がなぜ議席を取ったのかまったくわからなかったので、色々見学してきた感想。

感想の結論から言うと、この党はもう少し国政や地方議会で議席を伸ばす気がする。(2019.7.23, 8:00, 追記・編集あり)

(追記2 2019/7/24の朝日新聞によると、N国への投票者層(比例区)は次のような人々がコアらしいです。「男女比は男性68%、女性32%だった。年代構成は40代が27%で最も多く、30~50代で全体の6割超」。参院選でN国に投票、68%は男性 比例区朝日出口調査 - 2019参議院選挙(参院選):朝日新聞デジタル
また、この記事はBLOGOSに転載されており、コメント欄でN国支持の方の意見が読めます。)
blogos.com


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NHKをぶっ壊す」というワン・イシューは、裾野が広い。
裾野を広げているのは、NHK自身である。正確に言うと、受信機があればその家庭からは強制的に受信料を徴収できるという、現在の公共放送についての法的な規定である。
つまり、この問題の当事者は、テレビの受信機をもっている人全員であり、いまさらにワンセグ付きのスマホやカーナビ利用の問題で、火種は広がっている。
japanese.engadget.com

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カルト的な支持層や悪ふざけ投票を集めても、一人の議員は出せない。まぐれで99万票は集められず、合理的な背景がそこにあると考えるのが自然だろう。

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NHKの受信料を高いと思っている人は多い。
ワンセグ(カーナビ含む)に課金する計画をふざけるな、と思う人はもっと多い。
私たちは有料放送のスクランブルに慣れている。どうしてNHKだけが「例外的に」「スクランブルもかけずに」お金を強制的に徴収できるのか。NHKスクランブルをかけて、見たい人だけ金を払ってみればいいじゃないか、と思う人が増えても、さほど不思議ではない。ネットのコンテンツも、有料サービスには鍵がかかっているのが普通だから、「鍵もかけずに接続設備を持ってたら即課金」ってそりゃおかしいだろ、という感覚が広がっても、やはりそれほど不思議ではない。
若者を中心としたテレビを見ない層や、NHKに興味が無い層が、N国のNHK不要論に耳を傾けるのはむしろ当然である。「課金」(受信料はここではこれに含まれる)をめぐる感覚は、変容している。

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今回の参院選投票率は48.8%。
上記のことを考えると、投票率が上がればN国への投票者は増える。常に、
選挙に関心がある人 <<<<< NHKの受信料に関心がある人
だからである。いやむしろ、いつも投票に行かない人でもNHKの受信料がなくなるかもしれないなら投票に関心を持つ、と表現するべきか。こういう考えの人はまだまだ眠っていると思われるので、N国の知名度が上昇していけば、さらに議席を取っていく可能性は充分にあると思う。
読売テレビ出口調査を見ると、維新と共産以外の支持者は4~8%がN国(立花孝志氏)に流れていて、薄く広く支持者が広がっているように見える。


それは当然である。受信料批判は政策論議とは「別次元」で展開されているからである。受信料批判、NHKの集金批判は、ハードな政策についての議論の土俵をやすやすと通過していくだろう。選挙の争点が明確であろうがなかろうが、一定の票を得ていく構造をもっていると思う。


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なお当然ながら、若者の投票率が上がれば、N国の得票もあがるだろう。
若者ほどテレビを見なくなっているし、N国はYoutubeなど動画やSNSの使い方がうまい。訴え方も、学校の例を話の中で出すなど、若者にとって身近なものになっている。
ちなみに、いまgoogleで「ワンセグ 受信料」と検索すると、3つ表示される動画はすべて立花孝志氏のものが表示される。(私が見学して回った結果、googleが勧めてきている可能性はあるが)

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ネット上でリベラルぽい人々が、「なぜかわからない」と書いている背景には、その種の人たちの何割かはテレビから遠ざかっているせいもあるかもしれない。
N国の訴えが響く層は、テレビに価値を見いださない人たちか、テレビが好きだがNHK受信料は払いたくない/NHKはほとんど見ない人たちか、である。後者の感性は、リベラルな知識人には想像しにくいかもしれない。

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立花氏は、ある動画の中で「目立つために戦略的にふざけている」(要約)と言っている。
ただの悪ふざけの馬鹿者だと思っていると、相手を見誤る。
動画や政見放送をいくつか見たけれど、他の候補者の中にも弁の立つ人がいて、戦い方や訴え方を知ってる。
いろいろと、どぶ板もやってるようである。
立花氏およびN国がふざけているのは最初の入り口のところだけで、その先には「NHKにお金を払う理由がよくわからない人」に向けた、明快な論理が用意されている。明るく、親しみやすく、平易に。

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掘り出されたtweetやらその他の批判を見ると、たしかに氏は問題を抱えた人物のように見えるが、おそらく99万票のうちの大半は、彼やこの党の抱えている危うさに気づかずに、あるいはそれを目にしてもなお、「受信料問題」をはじめとしたNHKに対する疑問や反感にドライブされて投じられている。
そしてこの傾向は、まず次の選挙でも変わらない。NHKが反N国キャンペーンでもやればそれこそ別だが、できるわけがない。
NHKにとってはパンドラの箱が空いてしまったのではないかと、私は思っている。それはN国が変えているというよりは、有料コンテンツをめぐる時代の感覚の変化という、より大きな変容が根底にあるからなのだろう。そして、そこに「私/俺は見ないし興味もないからお金払いたくない」──身も蓋もない本音がまかり通る現代の感性が加わって、開いてしまった箱の口をさらに広げていく。

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最後に念のため言っておきますと、私は現在のNHK報道の政治的中立性に疑問をもっておりそれについて文句がありますが、数々のすばらしいドキュメンタリや調査報道などの制作には心から尊敬の念を持っており、NHKにはむしろ、もっとがんばってほしいと思っている立場です。さらにいえば、受信料を支払うから、もっと独立性を上げて、よい報道をし、よい番組をがんがん作って下さい、という意見をもっております。