読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

内地-外地を結ぶ書物のネットワークと朝鮮半島の小売書店 : 日配時代を中心に

論文

『翰林日本學』第27輯、2015年12月、pp.31-50

全文は下記で読めます。
http://japan.hallym.ac.kr/index.php?mt=page&mp=4_7&mm=bookdb&oxid=1&cmd=view&id=1113&artpp=10&navinum=10&cpage=1&cid=5&orf=30

要旨は以下のとおり:

 本論文では、第二次世界大戦以前における日本内地と外地を結んだ書物流通ネットワークの考察を行った。とりわけ、重点的に検討したのが日本出版配給株式会社(日配)成立以降における内地と朝鮮半島とを結んだ流通網である。また関連して、この時期の朝鮮半島における小売書店のあり方についても言及した。日配の活動については、関係者が後年まとめた詳細な歴史『日配時代史』が存在する。ただしこの資料は名前の示す通り、日配全体の業務や組織の変遷を、おおむね編年体で追いかけるものであり、特定のテーマや地域については情報が分散していて輪郭が掴みにくい。今回は、『日配時代史』の記述を参考にしながら、そこに日配が刊行していた冊子『日配通信』『出版普及』『新刊弘報』『出版弘報』他を交差させ、朝鮮半島を舞台とした書物流通の実態に迫った。また、朝鮮半島の小売書店の実態についても、報告を行い、これらの作業により、日本帝国主義時代末期の朝鮮半島における日本語書物の流通過程の一端が明らかになるとともに、書物の売買を通した日本人、朝鮮人の接触と共棲、衝突のありさまが浮かび上がっていくものと考えている。
 戦時国家は、社会を隅から隅まで統制しようとした。出版人たちは、組織に所属していればいるほど、国家権力に沿うかたちに自からと、自からの所属する組織を変えていかなければならなかった。かくして、出版業の諸団体は国策と一体化し、権力の手先と化した。彼らはそれを強制されて行ったが、しかし同時に組織人としてそれを自主的にも行った。それは批判されるべき歴史であり、反省を引き継ぐべき過去である。そして、現代においてなお顧みるべき教訓でもある。だが、そうした権力と統制の側だけみるのは、時代の一部分でしかあるまい。社会装置の上で駆動する文化の動態は、より多様であり、社会装置そのものはイデオロギーとは別に存続し機能しうる。たとえば、日配が実現した書物の一元配給システムは、戦後日本の高度な取次システムへと引き継がれた。