日比嘉高研究室

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越境する作家たち:寛容の想像力のパイオニア

文學界』6月号(2015年6月1日)に「越境する作家たち:寛容の想像力のパイオニア」という評論を書きました。排外主義の言葉が勢いを持つ現代において、越境者たちの文学がどのような可能性を持つのか論じたものです。キーワードは「寛容」。リービ英雄楊逸多和田葉子伊藤比呂美、田原、温又柔、シリン・ネザマフィ、近代の移殖民文学などに言及しています。www.bunshun.co.jp


ちょっと出だしあたりを紹介します。

 ヘイト・スピーチ、そしてシャルリ・エブド事件。
 文化的な出自が異なる人々に対して振るわれる恐ろしい暴力に、どのようにして対峙するのか。〔…〕
 無根拠な誹謗の言葉や暴力的な恫喝の言葉に同調しないようにするのはもちろん、躍らされたり、萎縮させられたり、あるいは自主規制したりすることを私たちは避けなければならない。排外主義の表現に対抗する、オルタナティヴな言葉と想像力のレパートリーを、増やさなければならない。
 私はここでその足場の一つを、現代文学に求める。日本語を操る外国出身の作家・詩人たち。そして日本と日本語から離れ、〈外の言葉(エクソフォニー)〉を操る作家・詩人たちである。彼らの存在と彼らが紡ぎ出す言葉とは、排外主義と不寛容が靄のように立ちこめ始めている日本の言論空間で、今後一つの重要な鍵になっていくのではないかと私は考えている。あらかじめ言うならばそれは、寛容についての私たちの言葉と想像力を鍛え、思考を研ぎ澄ましていくための砥石のようなものになるのではないか、ということである。

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