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日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

今日の「仮面ライダーの敵」が非常によいので

敵と味方のあいだで

今朝の『朝日新聞』(2013.4.12)のインタビュー「仮面ライダーの敵」が非常に素晴らしいので、読んでいない皆さんにぜひお勧めしておく。私は子どもの看病明けの朦朧とした頭で強い関心も無く読み始めたのだが、一気に目が覚めた(笑)

話し手は、白倉伸一郎さんという仮面ライダー・シリーズの何作かのプロデューサーを務めた方である。要するに、〈仮面ライダーの敵〉――正確に言うと〈敵/味方の切り分けのあり方〉の変遷をたどっていくと、我々の社会の善悪観の変遷が見えてくる。仮面ライダー・シリーズは、単純な勧善懲悪的善悪観から、どうやって抜け出すかを模索してきた結果、非常に複雑で敵/味方の区別がしがたい世界観にたどり着いた、ということである。

こんなことも言っている。

「〔…〕ライダーも怪人も、人間と人間ではない生物が混じった、いわば境界線上の存在です。ライダーの外見は人間に近いが、怪人は不快感を与える不気味な姿をしている、という差しかない。境界線をはさんで『我々』の側にいるヒーローが、『やつら』の側の怪人を倒して視聴者にカタルシスを与える、というのがヒーロー物語の基本構造で、本当はそれは善悪と関係ない話です。」
「一方で、私たちは『正しいものが勝つ』『悪いやつは罰せられなければならない』という素朴な善悪観を持っている。この善悪観と『境界の向こう側にいる不快なやつらを倒す』という欲求が混じり合うと、『境界を挟んで我々に近い側が正義』『向こう側は倒すべき悪』という思想にすり替わってしまう。国境線を巡る摩擦もそういうものでしょう。」

仮面ライダーの本質」

つまり、仮面ライダーは、冷戦構造的なこっち=善、あっち=悪の世界から、より現代の状況に根ざした世界観を追求していった結果、あっちにもこっちにもそれぞれの言い分や状況や立場があって、それは見た目とか属性とかとはとりあえず関係なくこんがらがっていて、もう今や善悪の線引きなんて単純にできなくなっちゃってるじゃん、というところに行き着いた、という主張である。そして実はそうした世界観は石ノ森章太郎の原作にもともとあってものだ(つまり冷戦構造のせいで単純だった、とも言えない)ということもほのめかしてある。

また、氏は「私たちが考える仮面ライダーの本質」として、「同族同士の争い」「親殺し」「自己否定」の三つをあげてもいる。シビれる(笑) また戦闘空間が局所化・精神化している、みたいな分析もあって、これも面白い。詳しくは本文参照。

インタビューにしては物凄く内容が圧縮されていて濃いにもかかわらず、論理が明晰で例が卑近なために、わかりやすい。サブカル好きな人だけではなく、世の老若男女、お父さんお母さん、学生諸君、国境に関心がある人、新大久保の中心で愛を叫びたい人、国防軍を作りたい人なんかに、心静かに読んでもらいたい。

ちなみに仮面ライダーの分析をしようとする人にとっては、たぶん〈物凄く引用しやすい文献〉のはずで、おすすめである。しかし内容分析にかかわる修論レベルの結論は、全部作り手側のこの人が言ってしまっているので、サブカル論をやりたい人はここまでいわれちゃうと大変だ(笑 実際、作り手側の意図通りの物語になっているかどうかは、検証してみないとわからないわけだが) 部分訂正案しか出せなくなっちゃうからね。ちょうど、自作解説好きだった三島由紀夫(うまいんがこれが)が、研究者泣かせなのと同様である。白倉伸一郎さんには『ヒーローと正義』という著書もあるようだ。

ヒーローと正義 (寺子屋新書)

ヒーローと正義 (寺子屋新書)


子どもにこそ複雑で豊穣な世界を

さて、この方が言っていることでもう一つ納得する点があった。聞き手が、子ども向けには単純な勧善懲悪物語の方がいいんじゃないですか、と言うのに対し、明確に否定したところである。子どもだからこそ、複雑な世界が必要だ、という主張。

私も、子どもが生まれてから、幼児番組を見るようになり、絵本を読むようになった。いろんな作り方があり、さまざまなレベル、質のものがある。親として、また教育者の端くれとして感じるのは、子ども相手だから、とナメて作ってるモノはすぐわかるし、これじゃあせっかくの伸びしろが伸ばせない、ということである。

あえて具体的に書くが、NHKの番組で言えば「日本語であそぼ」とか「ピタゴラスイッチ」とか「ひつじのショーン」とかは、ものすごく丁寧に作ってあるなぁ、と感心する。一方、「お母さんといっしょ」はもう本当にダメである。型が決まっていて、「これでいいでしょ」「子どもはこれで喜ぶでしょ」という作り手側の惰性が見え見えである。結果、男の子は元気、女の子はやさしい、とか、お母さんはいっしょ(お父さんはどこ)みたいなジェンダー配置を再生産して垂れ流すし、元気元気を連呼して歌って踊ってれば万歳みたいな底の浅い出来になっている。子どもはもちろん喜ぶが、子どもを喜ばせるのなんて、コツを掴めば誰だってできるので、喜べばよしでは困る。

朝の忙しい時間帯に頼りになる番組なので、頼む、しっかりしてくれ、NHKの中の人。

絵本についても、実は色々書きたいネタが溜まっているのだけど、先延ばしになっている。これはまた別の時に書こう。面白い絵本、ありますね。けっこう感激しています。