読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

Narrating Identities in Translation: Levy Hideo and Contemporary Japanophone Writers

Workshop: "Self-Narratives in Japanese Studies – Literature and History," Dec. 6-7, 2012, Freie Universität Berlin.

[要旨]
この発表では、現代日本に住む、外国出身の日本語作家について検討する。リービ英雄や温又柔、シリン・ネザマフィなど何人かは、意識的に私小説の語りを用いている。「ガイジン」であることを利用しながら作家が創作する場合、みずからのアイデンティティを作品世界に投影し、その結果、私小説の形式に近づくことは容易に理解できる。
 だが、問題はそれだけではない。非日本語話者を主人公とする私小説は、翻訳の問題を吸い寄せる。現代日本の日本語文学において、自己表象は「翻訳家」として現れるというのが、この発表の一つのテーゼである。リービ英雄の「千々にくだけて」および温又柔の「好去好来歌」をを検討しながら、言語、翻訳行為、アイデンティティが、これらの作家においてどのように結びついているかを考察する。
 リービ英雄においては、翻訳のプロセスが操作的に引き延ばされたり「訳しすぎ」が意識的に使われたりしながら、9.11と主人公の間に批評的な距離を創出している。温又柔においては、外国出身の家族と日本で生きるという日常によって直面する多言語状況と、翻訳とその混乱とが、自身のアイデンティティの揺れとからめながら描かれる。ストーリーは、日本語の「平凡さ」を彼女が(否定的な意味でなく)受け入れることを暗示している。