日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

日系アメリカ移民一世、その初期文学の世界

『移民研究年報』 17、2011年3月、pp.43-63

Exploring the First Stage of Japanese American Vernacular Literature, circa1900

[要旨]米国日系移民の日本語文学については、これまで翁久允の諸作品や俳句・短歌などの韻文を中心に研究が進められてきた。これに対し本論文は、これまでほとんど分析が試みられていない、1900年前後の日本語文学の様相を分析する。今回はサンフランシスコとシアトルの邦字紙誌の文芸欄の動向を概観しながら、初期一世文学の展開をいくつかの作品の分析にもとづいて明らかにする。これにより、これまでには知られていなかった一世の文学活動の初期の様態が明らかになるだけにとどまらず、20世紀初頭の北米移民地の文化状況が浮かび上がってくる。具体的には、各媒体の文芸欄掲載作品をリストアップした上で、個別の作品――たとえば短歌・俳句などの短詩形文学短歌・俳句などの短詩形文学、移民地ならではの狂詩山田鈍牛の「英美詩九首」、桑の浦人の短篇小説「狂乱」、鷲津尺魔の短篇「歌かるた」、短篇伊沢すみれ「雪娘」などの分析を行う。彼らの文学にあった内輪性/公器性、硬派/軟派、修辞的慣性/写実性の間の葛藤に注目しつつ、初期文学の混淆性と多様性を明らかにする。