読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

北米移民地における日本書店――サンフランシスコの場合――




立命館大学国際言語文化研究所/日本人の国際移動所研究会 連続講座「国民国家と多文化社会」第18シリーズ「環太平洋における移動と労働」第3回「近代書籍流通:日本語の交差(日本・北米・南米)」,立命館大学

[要旨]

 「本は流れる」と題した著作を書いたのは清水文吉だったが、この言葉は移民地における書物の動態を考えるとき、とりわけふさわしいように思われる。故国の文物と隔たって生きる移民たちにとって、母語で書かれた本や雑誌、新聞は強い愛着の対象となる。北米の移民地においても、おびただしい数の書物が太平洋をこえ、日本町に集住する人々や、地方の季節労働者たちなどへと届けられた。そうした書物の流れの結節点となったのが、各地の日本人街の中で営業を行っていた日本書店である。
 ただし注意したいのは、この考察がもし仮に移民地を単独でとりあげて思考した場合においては、その意味と魅力とを半減してしまうだろうことである。考察の対象が、「流通」である以上、移民地だけを考えても意味はなく、また日本だけを考えてもそれは同じだろう。日本と移民地を往還し、太平洋をまたいで活発に行き交った書物流通のネットワークそれ自体こそが、最終的な考察の対象であるべきだと考える。
 本発表では、サンフランシスコの日本人街を中心に、その戦前期における書店史の概要、個別の書店を対象にした商売の実際、日本の取次との関係、読者たちの様相などを考察する。