日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

声の複製技術時代──スポーツ実況放送と活字メディア──




第一回公開ワークショップ「スポーツする文学」,立教大学



[要旨]

スポーツ・ジャーナリズムは、ラジオの登場以降、既存メディアとの競合時代を迎える。このとき、松内則三など人気アナウンサーの〈声〉が、諸メディアの競合の焦点となった。ラジオ放送の録音が不可能だったこの時代には、たとえば野球試合の実況放送が、文字として「録音」され、複数の活字メディアに「転載」=「再複製」され、レコードとしても発売された。面白いことにそのレコードは、現実に基づきつつも手を加えた、フィクション=ラジオ・ドラマである。広がりつづける〈声〉の「転載」=「録音」とはいかなる事態だったのか。速記され文字となり、レコードの音となることにより、何が新しく獲得され、何が置き去りにされたのか。すなわち、複製された声に何が起こるのか。そしてそのとき、スポーツ実況を聞き、読む経験とは、どのようなものであったのだろうか──。