日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

転落の恐怖と慰安──永井荷風「暁」を読む──

『京都教育大学 国文学会誌』第33号, 2006年6月, pp.33-45

[紹介]

 永井荷風の滞米時代を、一時滞在の旅行者、傍観者として捉えてきた先行論に対し、〈在米日本人〉コミュニティの中に生き、〈在米日本人〉としてあったものとして再考する。この視点からすれば、彼が滞米中に書き継いだ作品群『あめりか物語』は、〈在米日本人〉による作品だということになる。こう考えてみたとき、『あめりか物語』を、同じ時期にアメリカで生活を送っていた他の〈在米日本人〉たちの日本語文学と同じ地平で評価する可能性が我々の前にひらける。日本近代文学と日系移民の日本語文学との間の入り組んだ交渉関係を考える一つ入口が、そこにはある。このことを短篇「暁」を読むことを通じて論証する。