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日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

 永井荷風『あめりか物語』は「日本文学」か?

2005年度日本近代文学会秋季大会,國學院大學,2005年10月23日(パネル発表。総題「〈移動する〉文学から何が見えるか── 北米日系移民の日本語文学と近代日本──」)

[要旨]

 永井荷風は1908年に帰朝し、その後没するまで日本で活動した。だがもし彼が帰国しなかったとしたら、在米中に書きつがれた彼の『あめりか物語』はいったい何文学とされていただろうか? これはなにも荒唐無稽な仮定ではない。20世紀前半の北米移民においては、出稼ぎ/定住/旅行の区分はさほどはっきりしていなかった。永井壮吉は定住移民になっていたかもしれないのだ。仮にそうだったら、同作は「移民文学」とみなされていただろう。では実際は? もしや我々は今それを作者の「執筆後の居住地」を根拠に「日本文学」としていないか? 同作の登場人物は、そのほとんどが「日本人」だ。『あめりか物語』とは『あめりか〈移民〉物語』だったのか? この作品を、日本文学ではなく、日系移民日本語文学であり、アメリカ文学であり、そしてそのいずれでもある/ないと見うる視座の可能性を、その背景となった移民地における日本語環境の問題ともからめて論じる。