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日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

漱石の「猫」の見たアメリカ──日系移民一世の日本語文学──





『〈翻訳〉の圏域』筑波大学文化批評研究会編集・発行、2004年2月、pp.227-243



[紹介]

 本論文は、『吾輩の見たる亜米利加』(保坂帰一著、1913-4)というある日系移民が書いた小説を分析することを通じて、一世たちの日本語文学の位置・意味を考えることを目標とする。この小説は、夏目漱石の『吾輩は猫である』の続編という体裁をとりつつ、サンフランシスコを中心とした20世紀初頭の日系人社会を描いたものである。現在では知る人のほとんどないこの作品をわざわざ取り上げるのは、それが次のような移民をめぐる問いに答えを示してくれると考えられるからだ。『吾輩の見たる亜米利加』は、一世の日本語文学が隆盛する時期にあらわれ、しかももっとも大部な長篇小説であり、移民の生活を詳細に描いており、近代日本文学との興味深い関係を示す、という特徴をもつ。論文では、移民地の日本語メディアの発展と、書店・取次などの流通網の整備状況を資料をもとに明らかにし、「本国」の日本文学との関係性、移民の表象をめぐる具体的な作品の分析を展開した。さらにその結果を、明治期の殖民論とのつながり、「郷土文学」という評価と「移民地文芸」の登場などの諸問題につなげて論じた。