日比嘉高研究室

近況、研究の紹介、考えたこと

無駄話

Chat-GPT3に文献目録を整えてもらった話

Chat-GPT3が話題になり始めたとき、シラバスを書かせてみたり、文学者クイズを答えさせてみたりして、すごいなぁ、けどまあ仕事には使えんな、と思っていたのだけれど、最近認識を改めつつある。こやつ、助手として、ものすごく優秀だ。たとえば今日は、参考…

紹介と感想  川口隆行『広島 抗いの詩学 原爆文学と戦後文化運動』琥珀書房2022

www.hanmoto.com近年出た近代文学、戦後文化史関係の研究書では、最良の成果の一つだと思う。近代文学研究の現在の議論の水準、関心の持ち方がどのあたりにあるのか。隣接分野の方にも、この分野の大学院生たちにも、テーマの遠近を問わず読んで欲しい。内容…

NDL Ngram Viewerを使って「私小説」概念の歴史を大づかみしてみた

[目次] 1.文芸用語「私小説」の使用頻度を調べる 2.複数の検索語彙を重ねて表示させる 3.「私小説/心境小説/本格小説」 4.「私小説/純文学/通俗小説」「通俗小説/大衆小説」 5.「探偵小説/歴史小説/家庭小説/私小説」 6.冷静になってちょっと…

ひさびさの対面学会

昨日、ひさしぶりに小規模の学会が、対面とオンラインの併用であった。私はコメンテータを引き受けていたので、会場まで出向いた。京都での開催。対面、すごくいいなと再確認してきた。どんなところがよかったか。❶「ついで」がいろいろできる/起こる 久し…

ゴミから読む映画「ドライブ・マイ・カー」

濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」を見てきました。面白かったので、ちょっと感想を書きます。ネタバレがいやな人は、以下は読み進めず、そのままページを閉じて下さい。特に遠慮せずに書いていますので。以下は、映画「ドライブ・マイ・カー」を、ゴ…

ゴロが死んだ話

ここのところ食べる餌の量が目に見えて減っていたから、予期はしていた。夕食の後、リビングの隅に置いたケージを覗きに行くと、餌の減りがさらに少なかった。あいかわらず彼は巣の中に入り込んでいて姿を見せない。あまりに変化のない餌箱に、ふと不安を感…

新刊出来! 単著が出ます。

出来!!!!日比嘉高『プライヴァシーの誕生 モデル小説のトラブル史』新曜社書店にはお盆明けぐらいから出るはず。編集は今回も渦岡謙一さん。本当にお世話になりました。装幀は難波園子さん。クールかつ印象的なのを作って下さいました。 pic.twitter.com…

コロナ禍の大学キャンパス、およびオンライン授業3ヶ月経過後の授業アンケートの結果

コロナ禍の中の大学キャンパス この記事は、Twitterで「#大学生の日常も大事だ」というハッシュタグが注目を集めている中で書いています。最初、以下で紹介する私の授業アンケートの結果と、ハッシュタグで並ぶ大学生たちの訴えは、けっこう違うな、という感…

大幅更新 「近現代文学研究関連の情報収集」

ほぼ2年ぶりぐらいに、自分自身のウェブページ「近現代文学研究関連の情報収集」と「[演習発表用]文献の集め方」を更新しました。park18.wakwak.com park18.wakwak.comどちらも、近現代を中心とした日本文学研究に関わる文献収集のためのリンク集とその解…

Google翻訳 vs みらい翻訳 vs DeepL翻訳:日本語論文の英文要旨を訳させてみた

最近の機械翻訳の進歩は本当にすごい。以前「みらい翻訳」を試してみて、その精度におののいたのですが(「みらい翻訳」を使って仕事をしました。(使用感) - 日比嘉高研究室)、先日来、DeepL翻訳という新手のサービスが登場して話題になっています。gigaz…

タニア・ブルゲラ《10,148,451》:あいちトリエンナーレ2019 振り返りPart 2

8月5日 手に押されたのは、2019年の難民の数――生き残った人々と亡くなった人々の。スタンプの数字はタニア・ブルゲラ Tania Brugera の作品《10,148,451》の仕掛けの一部である。作品の鍵は「強制的な共感」。ブルゲラの作品を見る前、会場の別の作品を見て…

毒山凡太朗《君之代》:あいちトリエンナーレ2019 振り返りPart 1

「あいちトリエンナーレ2020」についての小文を頼まれておりまして。以下は、その準備運動、もしくはロングバージョンです。 10月9日 あまり期待はしていない、いやもっといえば警戒心の方が先に立っている。駐車場に車を止めて、円頓寺の商店街を歩く。台湾…

久々更新ついでの駄弁

この前、思わぬ方から「ブログ読んでいます」と言われ、恐縮したのである。最近はもっぱらTwitterに投稿しており、ほかの元ブロガーの方々と同じように、Twitterでこまめにガス抜きすると、ブログを書くエネルギーがなくなるという循環になっております。 が…

外交と天皇が憲法を越えるとき

いま、「外交」と「天皇」を理由に、現役の府知事が現役の県知事の辞職を求める超展開になっている。 www.asahi.com愛知県知事は、「憲法通りにやります」と言っている。 その県知事に対して、府知事は辞職を求めている。 辞職を求める根拠は「憲法の外」に…

幼児と戦車

本日、以下のようなニュースを見ました。 this.kiji.isたまたまこの前、息子が戦車のラジコンをほしいと言っていたのもあって、思ったことを書いてみます。 「はたらくくるま」と戦車 この手の「はたらくくるま」系の本は息子が幼稚園の頃何冊か持っていまし…

N国がなぜ議席を取ったのかまったくわからなかったので、色々見学してきた感想。

感想の結論から言うと、この党はもう少し国政や地方議会で議席を伸ばす気がする。(2019.7.23, 8:00, 追記・編集あり)(追記2 2019/7/24の朝日新聞によると、N国への投票者層(比例区)は次のような人々がコアらしいです。「男女比は男性68%、女性32%…

「みらい翻訳」を使って仕事をしました。(使用感)

ちょっと前の紹介Tweetが予想外に出回ってしまったので、責任?を感じまして、ちょいと使用感について書いておきます。話題の #みらい翻訳、まじですごい…。Google翻訳よりずっといい。訳あって英文の原稿を用意しているが、完全に私のヘボ英作文を凌駕。こ…

遅すぎる子供と早すぎる大人

息子が遅すぎる 息子は小1になっているのだが、どうにも行動が遅い。着替えも遅い、食べるのも遅い、勉強を始めるのも遅い、遊びをやめるのも遅い。給食はクラスで一番最後に食べ終わり、プールの教室でも一番最後に着替え終わる。遅くなってしまう理由は色…

私たちはかしこく、冷静でありたい。

朴裕河さんの言葉。「重要なのは、結果以上に対話自体である。対話が続く限り、過去の不幸な時間は克服可能だ。これ以上手遅れにならないうちに、いったい何が問題だったのか、この四半世紀の葛藤から振り返る必要がある。」www.huffingtonpost.jpこれまで以…

謹賀新年 今年のことと去年のこと 附・2018のお仕事一覧

あけましておめでとうございます。 本年もどうぞよろしくお願いいたします。 年頭に際し、本年の抱負気味のことと、昨年の振り返りをしておきます。 2019年は ほとんど出す出す詐欺と化していた、モデル小説がらみの単著をまとめます(きっぱり)。 外地書店…

勉誠出版がネトウヨ化しているという悲報に接したあと自省した夜

(2018.08.12追記)この問題のあと、Twitterで以下のタグが出現して、盛り上がっています。Twitterらしいスマートな応援の仕方で、いいですね。私もちょっとだけ推挙しておきました。 twitter.com以下オリジナル本文です。 ■勉誠出版がネトウヨ化していると…

「美しい顔」とそれが提起した問題についての補遺

1. 「美しい顔」は、つくづくかわいそうな作品になったと思う。私は、この作品が世に出てきた時とても褒めたし、今でもよい作品で「ありえた」小説だと思っている。作者もポテンシャルの高い人なんだろう推定している。 2. この問題に首を突っ込んで以来…

「美しい顔」の「剽窃」問題から私たちが考えてみるべきこと

1.剽窃がアウトなのは当然だが、問題の核心はそこにない 第159回芥川賞の候補作となった北条裕子「美しい顔」が、他人の作品から表現の「盗用」を行っているのではないかと指摘を受け、議論になっている。「美しい顔」は六月号で発表された群像新人文学賞…

「大学ランキング。悔しかったら上げてみろ」

言いたい放題に言ってくれている記事について、一言だけ反論しておく。 kyoiku.yomiuri.co.jp 「(国立大は)運営費交付金の減額に逃げ込み、それを口実にやるべきことをやっていないのだ」 「大学ランキング。悔しかったら上げてみろ」 http://kyoiku.yomiu…

名古屋市教育委員会の「親学」について調べてみたらわかったこと

Ⅰ 小学校から「親学」のパンフレットが来た 先月(2018年4月)、子どもが小学校から「親学」と大々的に書かれたパンフレットをもらってきた。そこには、 名古屋市教育委員会では、子どもにとって親はどうあるべきかを考え、子どもとともに親として成長する楽…

ダメ作家の作品は擁護されるべきか

KaoRiさんの告白、告発の文章を読んだ。つらかっただろうと思う。note.muこれを読んだあと、アラーキーの写真をこれまでと同じように見ることはできない。アラーキーの写真は好きだった。 文学研究をしている人間として、私は作品の創作過程がはらんでいた倫…

学会向け批評記事のウェブ先行公開は、愚挙なのか

学会印象記を先行公開して叱られまして 少し前にこういう記事を書きました。hibi.hatenadiary.jp学会外の人に少し説明すると、日本近代文学会(近現代日本文学研究についての最大の学会です。会員数約1600人)には「会報」という冊子媒体があります。これに…

だれが小学生の作文を改ざんしたのか:検閲、震災、虐殺、発禁本

きのう目に入って、読ませてもらった id:Vergil2010 さんの記事。興味深かったです。 vergil.hateblo.jp 読んでいて「おっと!?」と思うところがあって、そこを起点にするともう少し深掘りできそうだったので、ざっと調べてみました。考えてみた主なポイン…

彼女に求められているのは「国籍」ではなく「血」の証明ではないのか

民進党は終わっていくようだ。蓮舫氏に戸籍を示させ説明させるという判断がどれくらいマイノリティにとって攻撃的で、かつ潜在的な党支持層を離反させるものであるのか、それすらわからない状態なのだろう。www.huffingtonpost.jp蓮舫氏が今、行おう/行わさ…

ミサイルが飛んで、新しい隣組の結成を祝おう

今日(29日)はアニメ・特撮脚本家で小説家の辻真先さんの講演を聞いた。いい講演だった。心から御礼を申し上げたい。講演の題を「ぼくは戦争の匂いを嗅いだ」とした辻さんの危機感は深いのだと思うが、語り口は温和かつなめらかで、まるで落語か講談を聞い…