(紹介)在朝日本人の文学に関する最近の研究 高麗大学の成果
かつて、植民地時代の朝鮮半島に住んでいた日本人=在朝日本人による文学活動というのがありました。ここのところ高麗大学の日本文学研究系の人たちが、大きな研究費を取って継続的にこのジャンルについての研究を行っていることは、間近で見て来ました。
先日、機会があったので、成果としてはどんなものがまとまっていますか?とうかがってみました。以下は、高麗大学の金孝順先生に教えていただいたその成果のリストです。日本語文学についての研究ですが、韓国内で刊行された業績であるため、日本にいると見えにくいです。金孝順先生の許可を得まして、ここにシェアします。
在朝日本人の文学についての研究は、やっぱり私たちのグローバル日本研究院のHK(人文韓国)事業から始まったのではないかと思います。もちろんその前にも2000年代に入ってから、韓国の国文学研究の一分野として植民地時期の文学が研究されることによって個別的な研究は少しずつ出ていましたが、本格的な在朝日本人の文学研究のはじまりは〔高麗大学校の〕グローバル日本研究院のHK(人文韓国)事業の中の<跨境日本語文学・文化研究会>によって在朝日本人の日本語雑誌に掲載された文芸物を共同研究しその成果を単行本の形で出版したのにあったと思います。
研究書の成果としては以下があります。
- 『在朝日本人と植民地朝鮮の文化』1(図書出版亦楽、2014.5)
- 『在朝日本人と植民地朝鮮の文化』2(図書出版亦楽、2015. 6)
- 『在朝日本人日本語文学序説』(図書出版亦楽、2017. 6) ←10年間の研究成果を網羅。『跨境日本語文学研究』第5号(2017年12月)に高麗大学国文学科のクォン・ボドゥレ先生による書評あり。
在朝日本人の日本語雑誌に掲載された文芸物に関する研究は、2017年HK(人文韓国)事業の終了によって最近はあまり関心の対象から外れていますが、その
代わり同じ時期、日本語新聞に掲載された日本語文芸物に関する研究─たとえば私〔金孝順先生〕が責任者である<『京城日報』文学資料DB構築事業>(『跨境日本語文学研究』(第3号、2016年6月)の研究資料参照)や兪在真さんが責任者である<韓半島で刊行された日本語民間新聞の文芸物研究>(『跨境日本語文学研究』(第5号、2017年6月)の研究資料参照)など─が注目されています。これらの研究は各々来年、今年終了されるもので、終了されたら研究書と資料集が刊行される予定です。
上記の事業に関わった若手研究者による博士論文が複数出ています。
- 中村静代『植民地朝鮮における怪談の研究』(高麗大学博士論文、2016年)
- 金寶賢『植民地時期における朝鮮・台湾の日本伝統詩歌に関する研究』(高麗大学博士論文、2017年)
- 李嘉慧『植民地時期における在朝日本人花柳界女性の表象研究』(高麗大学博士論文、2019年)
- 金旭『植民地時期における朝鮮・台湾の高等教育機関の文芸活動に関する比較研究』(高麗大学博士論文、2019年)
以上。
(コメント出演)中京テレビ キャッチ
5月30日、中京テレビの「キャッチ」という番組に、短いコメント役で出演しました。
SNSで「いいね!」が買われている問題について。
「みらい翻訳」を使って仕事をしました。(使用感)
ちょっと前の紹介Tweetが予想外に出回ってしまったので、責任?を感じまして、ちょいと使用感について書いておきます。
話題の #みらい翻訳、まじですごい…。Google翻訳よりずっといい。訳あって英文の原稿を用意しているが、完全に私のヘボ英作文を凌駕。この先私はもう1から英作文することはない気がする。今日、自分基準では、日→英の作文世界におけるシンギュラリティを迎えてしまった。https://t.co/SAt7AYs5A6
— 日比嘉高 (@yshibi) April 25, 2019
仕事の状況
- 私は日本人の日本文学・文化研究者
- 英語は下手くそ。けどときどき英語で学会報告する必要あり
- 今回はその発表原稿を作成
結論
めちゃ使えました。人間と機械の知的な協働の姿の一つの形が、ここにあるかもと思いました。まさに「みらい」体験。みらい翻訳のサイトは以下URL。
https://miraitranslate.com/trial/
アメリカ人の研究者にネイティブチェックしてもらいましたが、彼も「仕事がなくなるかも(笑)」と驚いていました。(彼は日本語翻訳の上級クラスを大学で持っている)
具体的使用感
ただし、そのままでは使えません。
◎ 1 英語らしい文構造や言い回しにしてくれる
○ 2 平易な表現を作るので、口頭発表が楽
× 3 語彙を置き換える必要あり
× 4 単数複数の区別が苦手
× 5 訳し間違いはそれなりに出てくる
1はほんとにありがたかった。私のような日本語脳の持ち主は、英語的な言い回しそのものを作るのに、すごく苦労する。というか現状ではできない。みらい翻訳は、そこを代替してくれる。しかも爆速で。英文の読み上げ原稿の作成スピードは桁違いに上がります。
2は、両面あります。とても平易で、多くの話者が理解できるような語彙に置き換えてくれるので、英語能力が低い私にとって、理解しやすく、また自分で話しやすい。
一方、これは 3 の注意点とバーターでもある。どの業界でもそうだと思うけど、喋っている内容を、外側の文脈とか理論的背景に関連付けていくようなキーワードや術語、言い回しがあるはず。そこはcontact のspaceじゃなくてzoneにしてください、みたいな。ここを適切に置き換えていけるかどうかが、上述の私のような仕事の場合には、キモかな、と思いました。
4 はもう日本語の仕様なのでしかたがないです。みらい翻訳の設計者達はがんばっていると思うんですけれど(訳せてるところもあるから。それってすごいことじゃ?)、基本的に日本語が単複を明示しない言語である以上、無理がある。こちらで直していくしかない。
5 も、当たり前。どれだけ行っても0にはならない話だと思う。間違いを探して、適切に直すこちらの能力が試されます。
で、私に関して言えば、完璧にそれをやるのは到底無理。人間のネイティブチェッカーに頼りました。研究発表ですから、、、やっぱその筋の人にチェックしてもらわないと、というのもありました。
おわりに
こういう、機械の仕事が人間の知的作業を助けてくれる場面は、これからどんどん増えていくんだろうなと感じました。機械はたぶんどこまでいっても欠点を抱え続けるだろうけれど、それをよく知った上で付き合えば、ものすごく有能なパートナーになってくれる。機械か人間か、は1か0かじゃないんですね。とっても面白い経験でした。今後も、お世話になり続けることでしょう。
高校国語科の曲がり角 ──新学習指導要領の能力伸長主義、実社会、移民時代の文化ナショナリズム
『現代思想』第47巻7号、2019年5月、pp.114-123
この論考では、現在進行中の「改革」によって変わろうとしている国語科の姿を確かめ、批判的に検討した。具体的に取り上げたのは、2018年に公示された高校国語の新学習指導要領である。
節題は以下の通り。
1.新しい学習指導要領はどこへ向かうのか
2.能力伸張主義にもとづく科目編成──亡霊が歩き始める
3.「実社会」コンプレックス──不安が愛を叫ばせる
4.自国語・自国文化尊重主義──教室に座っているのは誰か
5.おわりに 〈「文学国語」を使い倒す〉に向けて
同号の特集「教育は変わるのか」には、国語教育改革関係の他の関連論考(紅野謙介さん、阿部公彦さん、五味渕典嗣さん)も掲載されています。目次はこちらからどうぞ。
www.seidosha.co.jp
メールアドレスの変更について
所属組織のメールサーバの運用変更により、この3月で日比の大学メールアドレスが変わります。今後の連絡先については、下記をご覧下さい。
最近頂戴した本 4冊
Twitterでも紹介しましたので、以下貼ります。省力モード。
恵贈感謝★黒田 俊太郎『「鏡」としての透谷──表象の体系/浪漫的思考の系譜』翰林書房2018
— 日比嘉高 (@yshibi) March 15, 2019
ぱっと目、北村透谷についてのしぶい内容にも見えるのだけど、実はのっけからメルロ・ポンティの「鏡」の議論が出てきて、透谷を「鏡」としながら自分の姿を見つめた人々(続)https://t.co/QuyIw4LYpO
黒田本、書影であります。 pic.twitter.com/fwX2qUnQ9g
— 日比嘉高 (@yshibi) March 15, 2019
「荒地」派の詩史的再評価、新資料発掘(全集未収録の詩、書簡、目次細目)などなど、いずれも大変な時間をかけた労作です。日本の戦後詩史を考えるとき、長く参照されていく基本図書になるでしょう。
— 日比嘉高 (@yshibi) March 15, 2019
小説の作品論が五章、俳句論が一章。特徴的なのは、下岡さんによる黄霊芝へのインタビュー三編が収録されていることでしょう。そのほか「台湾に於ける主な日本語文芸グループ一覧表」「黄霊芝略年表」も付されています。作家黄霊芝の全貌を日本に紹介する貴重なお仕事です。
— 日比嘉高 (@yshibi) March 15, 2019
編者二人の懇切な解説と関連年表付き。さらに中野による堀田論、堀田による中野論を採録。さらにさらに竹内好の中野論、加藤周一の堀田論、鶴見俊輔の中野論を採録。だめ押しに二人に身近に接した蒲田慧、海老坂武、栗原幸夫の文章も収める。これでもかっ!という編者と書肆の気合いを感じる一冊です。
— 日比嘉高 (@yshibi) March 16, 2019
頂戴した本はまだまだまだまだあるのですが、順次、挙げていきます。まず手近な(文字通り机の上の方にあった)4冊でした。
ご恵投下さった他の著者/編者の皆さん、申し訳ありませんが、今しばらくお待ち下さい。
- 作者: 田口麻奈
- 出版社/メーカー: 思潮社
- 発売日: 2019/03/14
- メディア: 単行本
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- 作者: 黒田俊太郎
- 出版社/メーカー: 翰林書房
- 発売日: 2018/12/10
- メディア: 単行本
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- 作者: 下岡友加
- 出版社/メーカー: 溪水社
- 発売日: 2019/02/28
- メディア: 単行本
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- 作者: 竹内栄美子,丸山珪一
- 出版社/メーカー: 影書房
- 発売日: 2018/11/22
- メディア: 単行本
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